日本酒ってどんな酒? Vol.07 「造りによる違い その① ~酒母〔しゅぼ〕・醪〔もろみ〕~」

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日本酒ってどんな酒? Vol.07 「造りによる違い その① ~酒母〔しゅぼ〕・醪〔もろみ〕~」

今回からは、「造りによる違い」を解説。特に、商品名に表記されることが多いものにフォーカスします。今回であれば、「生酛・山廃の違い」など。

製造工程順に、何回かに記事を分けながらまとめていきます。覚えやすいところから、少しずつ知識を身につけていってもらえれば幸いです。

 

日本酒造りの工程については過去記事で解説していますので、まだご覧いただいていない方は、ぜひ目を通してみてください。今回の記事の理解度が、ぐっと増すと思いますよ。

日本酒ってどんな酒? Vol.02「日本酒造り 前編:精米~醪造り」

 

酒母による違い

酒母造りによる違い

 

酒母は、造りによる違いのなかでも商品名に頻出するものの一つ。”酵母”と混同しやすいのでご注意を。

酒母とはひと言でいえば、「発酵の元」。“酛〔もと〕”と表記されることも多いんです。蒸し米、麹、水をベースに酵母、乳酸菌を加えて造ります。乳酸菌は、雑菌の繁殖を防ぐなど、酵母を培養する環境を整える働きをします。

速醸系酒母と生酛系酒母

速醸系酒母と生酛系酒母

 

ここで採用される酵母の違いもさることながら、この乳酸菌について、「空気中に浮遊している天然のものを取り込むのか、人工的に造られた醸造用乳酸菌を添加するのか」でも違いが生まれます。

① 速醸〔そくじょう〕系酒母
人工の乳酸菌を添加。その名の通り、酒母の仕込みをスピーディーに行なえます。そのほか、品質も安定しやすく手間も少ないなど、利点は多数。

しかし、味わいに影響を与える乳酸菌による副産物が少ないため、生酛系酒母に比べると酒質は淡麗になる傾向があります。

一般流通している日本酒の約90%が、この速醸系酒母によって醸されていると言われています。

② 生酛〔きもと〕系酒母
空気中の乳酸菌を取り込みながら造ります。乳酸菌の育成期間が多くかかり、低温で仕込まれるため、時間を要します。

乳酸菌といっしょに他の菌も入ってくるため、品質の安定には管理の手間と技術が欠かせません。

コストはかかりますが、副産物が多く生まれるので、濃醇で複雑な味わいの酒に仕上がります。

「生酛」と「山廃」の違い

「生酛」と「山廃」の違い

乳酸の味わいがイメージしづらい方は、ひとまずヨーグルトを思い浮かべてもらえれば。

 

今回の記事のハイライトのひとつ。この違い、日本酒にそれなりに親しんできた方でも、ちゃんと説明できる人は少ないのではないでしょうか?

違い自体は単純で、酒母を造るときの「山卸し」という工程があるかないか。蒸し米と麹、水を混ぜて、櫂〔かい〕という船を漕ぐオールのような棒ですり潰していきます。

この山卸しを廃する(省略する)ので、「山廃」と呼ばれているんですね。

A. 生酛
山卸しを行なう。さまざまな副産物の影響による、複雑で重厚感のある味わい
B. 山廃(酛)
山卸しを行なわない。生酛と同様の特色に加えて、乳酸を感じさせる独特のまろやかさがあります。

生酛・山廃の違いが楽しめる銘柄の例

速醸系と生酛系の違いはわりとはっきりしているので、特に違いが理解しにくい生酛・山廃を飲み比べられるセットをご紹介。

常温でそのまま比較するだけでなく、燗にして比べてみるのも面白そうです。

 

■田中酒造店 真鶴 生酛・山廃 セット(https://manatsuru.stores.jp/items/5f6192f23ae0f44a2a63b317

醪〔もろみ〕造り(仕込み)による違い

醪造り(仕込み)による違い

 

醪造りとは、酒母をベースに麹、蒸し米、水を加えて、米の糖化と発酵を同時に行なう(並行複発酵)工程です。「仕込み」とも呼ばれています。

三段仕込み=三度に分けて加えること

一般的には、「三段仕込み」という伝統的な方法が採られています。何が三段なのかというと、麹と蒸し米と水を、日を改めつつ三回に分けて加えていくということなんですね。

こうすることで、発酵をゆるやかに、着実に進行させることができるというわけ。

四段仕込み+α

三段仕込みまでで、発酵自体は完了します。そこにさらに蒸し米やもち米を一回加えるのが、四段仕込み。米の糖分が発酵によって分解されず、そのまま酒に残るので、この工程を増やすごとに酒の甘みが増すんです。

七回に分けて蒸し米を加えていく、十段仕込みの酒も存在します。

麹に使う材料による違い

麹造りに使う材料による違い

「貴醸酒」は、蜜のように甘いと評されることも。

 

酒母に加える、麹、蒸し米、水のいずれかを代えることで、違った味わいを生み出す手法もあります。ここでは主要なものを二つご紹介。

貴醸酒
水の代わりに清酒を加えます。酒を使って酒を仕込む、なんとも贅沢な造り。

全量を清酒で代用するのではなく、三回目の“留添え〔とめぞえ〕”で清酒が投入されるパターンが主流です。とろりと蜜のように甘いのが特徴で、デザート酒としても重宝されます。

全麹〔ぜんこうじ〕
蒸し米を使わずに、醪に使う米の全量を麹で仕込みます

通常の麹の比率は20%ほどで、この比率(=麹歩合)を高くすることで、酸をしっかりと感じ、甘口で濃厚な酒に仕上がる傾向があります。全麹の酒は、「栗のような風味と甘み」と表現されることも。

次回は「搾り」と「おり引き」「濾過」による違い

今回はここまでにしておきましょう。次回は、仕込んだ醪を原酒と酒粕に分ける「搾り」と、搾ったばかりの“おり”が混ざった原酒の不純物を取り除く、「おり引き」「濾過」に着目して、仕上がる酒の違いを見ていきます。
 

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