日本酒ってどんな酒? Vol.08 「造りによる違い その② ~搾り・おり引き・濾過~」

日本酒の知識

日本酒ってどんな酒? Vol.08 「造りによる違い その② ~搾り・おり引き・濾過~」

中編にあたる第二回目は、ざっくり言うと「醪〔もろみ〕が原酒になるまで」の工程による違いです。

では、さっそくいってみましょう!

 

搾り(上槽)による違い

仕込んだ醪を、搾ることで原酒と酒粕に分けます。粕汁などにしても美味しい酒粕は、ここで生まれるんですね。

でも、今回着目していくのはもちろん原酒のほう。

搾る方法による違い

ひと口に“搾る”と言ってもいろんな方法があります。現在最もオーソドックスなのは自動圧搾機で搾る方法。「ヤブタ(藪田)式」と呼ばれる機械が多く使われ、空気圧で原酒を搾り出します。

最新のものでは、遠心分離機を用いる方法もあって、香気成分をほぼそのまま閉じ込めることができると注目されています。

 

搾る方法による違い

 

そのほか、味わいの変化を求めて伝統的な手法などをあえて採用する場合があります。ここでは、そのうちの3つを見てみましょう。基本的には、「圧をできるだけかけないようゆるやかに搾ることで、雑味を抑える」ことを目的としたものが多いです。

 

槽〔ふね〕搾り

その名の通り舟型の槽を使います。醪を詰めた酒袋を幾重にも重ねて、袋の重量を利用しながらゆっくりと搾り出していきます。雑味を抑えることが可能。

袋吊り(雫搾り)

これも名前の通り。醪を袋に詰めて吊り下げ、自然に落ちてくる雫を採取します。槽搾りよりさらに圧が弱く、手間はかかりますが、雑味を感じないきれいな仕上がりに。

粗濾し

濾過ではなく、搾りの方法の一種であることに注意。ざるのように粗い網目の布を使って搾ります。醪の中の米の固形分も一緒に搾り出されるので、米の味わいをダイレクトに感じる濃醇な酒になります。「にごり酒」の手法としても有名。

搾りの段階による違い

搾りの段階による違い

 

搾りにかんしては、こちらのほうがむしろよく出てくる項目かもしれません。搾り始めから中盤、終わり頃と、その段階に応じて三つの呼び名があるんですね。同じタンクにもかかわらず味わいの違いがはっきりと表れるので、日本酒の奥深さを体感できるポイントのひとつだと思います。

あらばしり

搾り始めの酒だけを採取するため稀少。薄く濁りがあり、フレッシュさと荒々しさを併せ持った、華やかな味わいです。

中取り(中汲み)

あらばしりの次に採取される、名前通り中間の酒。味や香りのバランスに優れ、鑑評会に出品されることが最も多い区分です。

責め(後取り)

最後に圧力をかけて搾り出します。さまざまな成分が醪から抽出されるので、複雑味があり、アルコール度数も高くなる傾向があります。

搾りの段階による違いが楽しめる銘柄の例

たとえば「仙禽〔せんきん〕 初槽 直汲み」の3本セットは、あらばしり・中取り・責めをすべて飲み比べられる、年末年始に発売される新酒の定番です。残念ながら、2023年3月現在はほとんど売り切れ状態。

搾りによる違いを飲み比べで試せなくても、「あらばしり」という表記を見かけたら、ぜひ一度飲んでみてください。その新鮮かつ華やかな味わいに、明瞭な個性を感じることができるでしょう。

おり引きによる違い

おり引きによる違い

 

おり(澱)とは、底に沈んだ細かな固形物、簡単に言うと滓〔かす〕のこと。搾ったばかりの原酒には、おりが混ざっているので、専用のタンクに入れて取り除いていきます。

専用タンクには、蛇口が二つ付いています。上の蛇口から上澄みだけを抜き取るのが特に表記されない通常の酒で、下の蛇口からあえて「おりが絡んだ」状態の酒を取り出すものが、特別に「おりがらみ」と呼ばれているんですね。

米本来の旨みを感じやすいとともに、生きた酵母が発生させる微発泡によって、爽やかな飲み口に。

おりがらみは、「うすにごり」「ささにごり」と言われる場合もあります。

濾過による違い

濾過による違い

 

おり引き後に残留した、さらに小さい澱を濾過によって取り除きます。活性炭素を原酒に混ぜてフィルターに通すのが通常の方法です。

香りや味わいを調整し、すっきりと仕上げるとともに、品質を安定させる効果があります。なので、時々言われるように「無濾過だからいい」というわけではないんです。

濾過しないとどうなる?

全く濾過をしないものは「完全無濾過」と表記されます。酒そのままの濃厚な味わいが堪能できます。ただ、雑味が多いと感じる場合も。日数の経過により酒質が変化しやすい側面もあります。

あわせて、たんに「無濾過」と書かれているものは、活性炭素を酒に入れずに濾過機にかけた「素濾過」であることがほとんど。濾過による味わいへの影響を抑える意図があります。

濾過・無濾過の違いが楽しめる銘柄の例

お酒に興味がある方なら誰もが一度は聞いたことがあるくらい、超有名どころをピックアップしてみました。

近年は「無濾過」の人気が過熱している印象ですが、このくらい格式高い銘柄なら、それぞれの良さをはっきりとわかっていただけるのではないでしょうか。

萬寿の無濾過生原酒は、毎年2月の限定出荷品なので、チャンスがあればぜひ。

 

■朝日酒造 久保田 萬寿(https://www.asahi-shuzo.co.jp/)

どぶろくは「搾らない」

どぶろくは「搾らない」

 

最後に、ひとつだけ余談を。

日本酒と似たにごり酒で、違いがあいまいになりがちなのが「どぶろく」。よく“濾さない酒”という説明も見かけますが、搾りを行なわない、つまり原酒と酒粕が一体になったまま出荷されると言ったほうがわかりやすいと思います。だから、トロッとした口当たりなんですね。

“韓国のどぶろく”的なマッコリは、米だけではなく小麦やトウモロコシなども原料とされます。実は軽く搾りが入っており、アルコール度数は6~8%程度です。

甘酒は、搾りどころかそもそも酵母によるアルコール発酵を行ないません。

次回は「火入れ・貯蔵出荷による違い」!

次回で「造りによる違い」はラスト。「生酒」や「ひやおろし」、「古酒」などのキーワードが登場しますよ!

 
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