日本酒ってどんな酒? Vol.09 「造りによる違い その③ ~火入れ・貯蔵出荷~」
日本酒の知識
日本酒造りによる違いのラスト後編。人気の“生酒”をはじめ火入れによる違いと、出荷時期による「日本酒の四季」についてもまとめました!
コンテンツ
火入れによる違い
火入れとは、酒を低温加熱することで「酵素の働きを止め、酒質を劣化させる菌を殺菌する」工程のこと。つまり、品質の安定と保存性を高める意図があるんですね。
火入れのタイミングは二回。濾過を終えて貯蔵に回す前と、瓶詰め時に行なわれます。この回数とタイミングの違いによって、味わいにも変化が生まれるんですよ。それぞれ、下記にまとめました。下にいくほど、「フレッシュ感が増す」というイメージでOKです。
- 火入れ
-
火入れ2回。香りは穏やかになる傾向があるものの、角が取れた甘み、酸味でバランスの取れた味わいになることが多い。
- 生詰め酒〔なまづめしゅ〕
-
火入れ1回。貯蔵前に火入れを行ない、瓶詰め時には火入れせずにそのまま詰められます。フレッシュ感を残しつつも、生酒よりは酸味が少なくマイルド。
- 生貯蔵酒
-
火入れ1回。火入れせず生のまま貯蔵し、瓶詰め時に火入れします。搾りたてのような爽やかさと、ふくよかな香りを併せ持っています。
- 生酒〔なまざけ〕
-
火入れ0回。本生〔ほんなま〕とも呼ばれます。搾りたての、イキイキとした酸味と甘みが印象的です。ただ、酒質が変化しやすく保存性に欠けるという側面も。
火入れによる違いが楽しめる銘柄の一例
生酒は、冬~春先に搾ったものをほどよく熟成させ、夏ごろに出荷されることが多いです。保存性が高くないので、どうしても季節限定商品になってしまいますが、たとえば下記の銘柄など、タイミングが合えばぜひ試してみてください。
■齋彌酒造店 雪の茅舎(https://www.yukinobosha.jp/products/)
貯蔵出荷による違い
濾過や一回目の火入れを終えた酒は、貯蔵熟成により酒質を落ち着かせてから出荷されるのが一般的。
しかし、この貯蔵をほとんど経ずに出荷される「新酒(搾りたて)」など、出荷時期によっても分類がなされているんです。
日本酒造りのスケジュールは?
日本酒造りのそもそものスケジュールについて、少しふれておきましょう。
米は毎年9月頃に収穫されるので、精米など酒造りの準備が始まるのは10月から。「寒造り〔かんづくり〕」と言って、酒造りのピークは12~3月頃というのが伝統的。雑菌が繁殖しにくく、温度管理もしやすいという利点があるんですね。
日本酒にも“四季”がある!
で、その出来立てを貯蔵に回さずに、まさに搾りたての状態で瓶詰めされたものが「新酒(しぼりたて)」なんです。細かい定義はあるのですが、ひとまず「12月~3月頃に出回る」ととらえておけば問題ないでしょう。
さらに、貯蔵熟成によって少し丸みの出た状態で出荷されるのが「夏酒」。ひと夏を越え、フレッシュ感と熟成のバランスがしっかり取れたものを瓶詰めするのが「ひやおろし(秋上がり)」と呼ばれます。近年では、祝い事が多い春シーズンに合わせた「春酒」も登場しています。
「新酒(しぼりたて)」→「春酒」→「夏酒」→「ひやおろし(秋上がり)」。冬を先頭に、日本酒の四季はこのように巡ります。それぞれ購入できるおおよその時期を表にしましたので、参考にしてみてください。そのあとに、各々の味わいの特色もまとめました。
季節の日本酒は、時期になると各酒造から毎年リリースされるので、ぜひ狙って飲んでみましょう!
日本酒の四季の味わい・特色
- 新酒〔しぼりたて〕
-
搾りたてを、火入れせずに出荷するので分類としては生酒になります。貯蔵による変化のない、荒々しくも爽快なフレッシュ感が何よりの特徴。それでいて、熟成がかかっていないので澄んだ印象も。
- 春酒
-
い事や花見のシーズンに合わせた、桜のモチーフや桃色のボトルなど、「縁起物」としてのカラーが強い。“赤色酵母”という突然変異でできた酵母を用いた、桃色のにごり酒なんていうのもあるんです。軽やかでスイートな酒が多め。
- 夏酒
-
全体的に、酸味などの角がほどよく取れたみずみずしい味わい。「夏の生酒」も風物詩として重宝されていて、新酒とはまた違った、熟成によるまろやかさを感じられるものが多いです。ウイスキーのようにオンザロックで楽しむ原酒タイプもあります。
- ひやおろし(秋上がり)
-
貯蔵前の火入れのみ行ない、瓶詰め時には火入れしない「生詰め酒」であることもポイント。そのため、熟成を経てバランス良く仕上がっているとともに、新鮮味も残っているんですよ。
長期熟成をかけると「古酒」に
二年以上貯蔵してから出荷されるものは、「古酒」と呼ばれます。5年、10年、なかには20年以上熟成させた古酒も存在します。
一般的には、年数とともに黄色が濃くなり、熟した果実のような甘く濃厚な香りが増し、口当たりはまろやかになっていきます。
“マイ古酒”を作ることも!
未開封のまま冷暗所で保存すれば、どんな酒でも古酒になりえます。
あえて封を切らずに瓶のまま置いておいて、ご家庭で“マイ古酒”にしてみるのも楽しみ方のひとつ。その味は、造り手すらも驚くものになることもしばしば・・・。
あくまで自己責任で、トライしてみるのも一興です。
次回は「冷酒、ひや、燗〔かん〕」について
本連載中「Vol.02~03」の記事で、日本酒造りの工程を通しで解説してから、原料による違い・造りによる違いを細かく分けてまとめてきました。商品名に頻出する違いは、これであらかた出揃ったと思います。
情報量が多くちょっと長いですが、すべてお読みいただくと、日本酒のラベルやメニュー表に書いてある意味がだいぶ解読できるようになるはずです。ぜひともトライしてみてください!
さて、日本酒の分類が大づかみにできたところで、次回は「日本酒を飲む温度について」。家飲みするのにぜひとも知っておきたい、おもに火入れの有無によって異なる「保存法・賞味期限」についても解説しますよ。
日本酒ってどんな酒?
|