ワインってどんな酒? Vol.10 「ドイツワイン ~“リースリングの白”の多様性~」
ワインの知識
引き続き産地編、今回はドイツのワインです。ドイツと言えば、白ブドウ品種「リースリング」の甘くて軽い白ワイン、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。でも、最近ではむしろ辛口の白ワインのほうが増えてきているんですよ。
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寒冷な気候で、ブドウがじっくり成熟
ドイツの気候は、全体的に寒冷。そのため、おもに南部でワイン造りが盛んです。ドイツのワイン生産地は北緯47~52度の範囲に分布し、これはだいたい樺太(サハリン)の北緯にあたります。
気候が寒冷だと、ブドウの実はゆっくりと熟します。逆に暑いと熟すのが早い。これは何となくイメージがつきやすいと思います。じっくり時間をかけて熟すと、フレッシュで、生き生きとした酸味が出るんです。
だからドイツでは元々、辛口のワインもたくさん造られてきた歴史があるんですね。日本人がドイツワイン=甘口のイメージを持ちやすいのは、高度経済成長期・1960~80年代に甘口ワインがもてはやされた時代の影響が大きいでしょう。この時期にはドイツ国内でも、輸出用を軸に甘口ワインが量産されました。
ここまで、甘口・辛口という表現が頻出していますが、そもそもそれってどういうこと? という方は、ぜひ過去記事の、「味わい」の項目を参照してみてください。
甘口・辛口の指標となる、2つのラベル表記
近年では、日本国内でも辛口や中辛口のドイツワインが広く認知されつつあります。単体で味わうものよりも、食中酒としてのワインが、世界的なトレンドになっているんです。
では、甘口・辛口はどのように見分ければよいのか? 実はドイツワインには、甘口・辛口を見分ける指標となる等級分け・ラベル表記があるんです。
下記をざっとご覧いただければ、ドイツワインにはどんなスタイルがあるのか? の参考にもなると思いますよ。
Pradikatswein(プレディカーツヴァイン)
まずは、果汁糖度とそれに付随するスタイルによる分類。果汁糖度の最低基準はここでは割愛。味わいとスタイルにのみ着目します。
また、「プレディカーツヴァイン」はドイツのワイン法における最上級ワインのことを指すので、その中でスタイルの分類がなされている、ということに注意しましょう。
つまり、この表記がないドイツワインも存在します。
- Kabinett(カビネット)
- 繊細で軽い味わい。比較的アルコール度数が低い。
- Spatlese(シュペートレーゼ)
- 完熟した、遅摘みのブドウを用いる。香り高く、力強い。
- Auslese(アウスレーゼ)
- 完熟もしくは貴腐のついたブドウを使用。複雑な深みがある。
- Beerenauslese(ベーレンアウスレーゼ)
- 貴腐化もしくは、過熟したブドウを用いる。濃厚で複雑なスタイル。
- Eiswein(アイスヴァイン)
- 樹上で凍ったブドウの実を、収穫しそのまま圧搾。凝縮感のある甘口ワイン。
- Trockenbeerenauslese(トロッケンベーレンアウスレーゼ)
- 干しブドウのように乾燥した貴腐ブドウで造る。蜜のように高貴な甘みと芳香。
「貴腐ワイン」って?
ここでドイツ名産のひとつである白ワインの高級品「貴腐ワイン」が出てきたので、簡単に解説しておきましょう。
“貴腐”とは、白ブドウが樹上にある状態でカビの一種である貴腐菌に感染し、水分が蒸発すること。それが進行すると、干しブドウのようにまでなるんですね。
つまり、菌の働きにより水分の蒸発が十分に進んでから収穫することで、凝縮された甘みと独特の芳香が生まれるというわけ。
特定の気候条件でしか貴腐化を進めることはできず、実が乾燥していて取れる果汁の量が少ないので、貴腐ワインは高価で取り引きされているんです。
「残糖値」によるスタイル
では、もうひとつのラベル表記に戻りましょう。こちらはワインの「残糖値」に応じた分類です。
つまり発酵に使われるブドウの糖が、使い切られずにどれだけワイン内に残っているか、ということ。ラベルへの表記義務はなく、味わいの先入観を避けるためあえて表記されていない場合もあります。
辛口から順に、下記のように表記されます。
なお、「ハルプトロッケン」とほぼ同等のものとして、「Feinherb(ファインヘルプ)」と書かれていることもあります。
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ドイツ国内の生産地
最後に、産地を3つだけおさえておきましょう。
モーゼル ~リースリングのメッカ~
ドイツ最古のワイン生産地。今も昔も、リースリングの銘醸地として世界的に知られています。
元々は甘口白ワインのメッカでしたが、現在は辛口系のリースリングが注目を集めています。
アール ~ピノ・ノワールがメイン~
モーゼルの北にある産地ですが、こちらは赤ワインの産地。
フランスのブルゴーニュで名を馳せる「ピノ・ノワール」が、ドイツでは“成熟の遅さ”を意味するシュペートブルグンダーと呼ばれています。
品の良い果実味が身上です。
ラインヘッセン ~ドイツ最大の産地~
起伏に富んだ丘陵地帯が広がり、「千の丘のある地方」とも呼ばれます。
リースリングのほか、同じく白ブドウの「ジルヴァーナー」にも注目です。
爽やかなフルーティーさと、ミネラル由来の硬質なニュアンスが感じられます。
次回は「スペインワイン」!
なにせドイツはまず、白ワインからおさえておくと間違いないでしょう。
次回は「スペイン」です!
ワインってどんな酒?
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