ウイスキーってどんな酒? Vol.11 「ジャパニーズウイスキー その① ~スコッチをさらに繊細かつ複雑に~」

ウイスキーの知識

ウイスキーってどんな酒? Vol.11 「ジャパニーズウイスキー その① ~スコッチをさらに繊細かつ複雑に~」

本連載、5大ウイスキー編もいよいよラスト! 最後を飾るのは、我らが「ジャパニーズ」です! スコッチを手本にしながらも、独自に進化してきたその歴史と、世界に注目されるゆえんに迫ります。

ジャパニーズウイスキーには、主に「シングルモルト」「シングルグレーン」「ブレンデッド」そして「ブレンデッドモルト」の4種類があります。ここではそのすべてに共通する特徴と、ブレンデッドについては重要なポイントがあるので、別枠で少しだけ補足説明を加えていきますよ。

 

スコッチをルーツに発展

スコッチをルーツに発展

 

ジャパニーズウイスキーが初めて発表されたのは、1929年(昭和4年)のこと。5大ウイスキーのなかでは、最も歴史が浅いんですね。

日本初のウイスキーは、「サントリーウヰスキー」“白札〔しろふだ〕”と通称される商品でしたが、スコッチから学んだスモーキーな味わいは、当時の日本人には馴染みなくあまり受け入れられなかったそうです。

しかし、これに続くかの有名な“マッサン”こと竹鶴政孝も、本格的なスコッチを目指したブレンデッドである「ブラックニッカ」を1963年に発表。

主にこの2銘柄が、現在に続く「スコッチに学びつつ、それをさらに繊細かつ複雑に昇華した」ジャパニーズウイスキーのスタイルを決定付けたと言えるでしょう。

ジャパニーズウイスキーの特色4つ

上記で書いた通り、その味わいをひと言で表現すれば、「繊細かつ複雑」。では、そうした酒質は、ジャパニーズウイスキーを取り巻くどのような環境から生まれるのでしょうか? 4項目に分けてまとめました。特に1と2が重要。

1. 多彩な原酒を造り分ける技術

多彩な原酒を造り分ける技術

 

まずお話ししておかないといけないのは、他社間の原酒の売買について。実は海外では、他社と売買した原酒を取り入れてブレンドを行なうことも多いんですね。それによって、より多彩な銘柄を生み出しているというわけ。

しかし日本では、国内のメーカー同士の売買は基本的に行われていません。そのため、さまざまな原酒を造り分けるノウハウが、各蒸留所ごとに積み上げられているんです。

2. 日本人の味覚に合わせた、繊細なブレンド

日本人の味覚に合わせた、繊細なブレンド

 

また、各メーカーにはそれぞれ、世界に名を馳せるブレンダー(ブレンドを担当する生産者)がいることが多いんです。「繊細に造り分けた原酒を、自在に使いこなすブレンド」

これこそが、ジャパニーズウイスキーのクオリティを支えている技術と言えるでしょう。

3. 大手企業による品質の安定

大手企業による品質の安定

 

サントリーの白州、山崎。ニッカウヰスキーの余市、宮城峡――といったように、大手企業が複数の蒸留所を傘下に置いていることが多いのも特徴です。

研究や設備投資を潤沢に行なえるのとともに、このことが品質の安定にも大きく寄与しているんですよ。

4. 日本独自の「ミズナラ樽」

日本独自の「ミズナラ樽」

 

最後に、日本が生んだ熟成樽の話も少し。ミズナラ樽は、爽やかさを感じる独特の香りが持ち味とされていて、ほかでは出せない奥深さをウイスキー原酒にプラスしてくれるんです。

ミズナラは育成に非常に時間がかかり、加工も難しいので非常に稀少な樽ですが、機会があればこの樽を用いた銘柄をぜひ味わってみたいものです。

ジャパニーズ“じゃない”ウイスキーにも注目

はい、急によくわからないことを言い出していると思います。

これを説明するには、日本の法律の緩さと、そこから派生したジャパニーズウイスキーの自主基準を見ていく必要があります。簡潔にまとめましたので、しばしお付き合いくださいませ。

日本の酒税法はウイスキーに甘い

日本の酒税法はウイスキーに甘い

 

まず、日本の酒税法は、ウイスキーに対しては本当に最低限の取り決めしかないんですね。その最たるものが、“ウイスキー原酒が10%入っていればウイスキーと表示してよい”というもの。

つまり、ほかの90%は他のスピリッツや醸造アルコールが入っていても良しとされているんですね。いかにも日本的なデザインのボトルに、海外から買い付けた原酒を詰めただけ、というものもあるようです。

独自基準を制定!

独自基準を制定!

 

そうした粗悪品からジャパニーズウイスキーのブランド価値を守るため、2021年、酒税法とは別に自主基準が設けられました。これは日本洋酒酒造組合という、洋酒メーカーが組織する日本唯一の団体が定めたもの。

つまり、ジャパニーズウイスキーと製品に表示したければ、この基準を守ってくださいね、ということ。そこから少しだけ抜粋してみました。

 

  • 原材料は麦芽、穀類、国内で採水された水のみ。麦芽は必ず使用すること。
  • 糖化、発酵、蒸留は、国内の蒸留所で行なう。
  • 充填時のアルコール度数は40%以上。国内で容器詰めすること。

 

以上のように、「日本国内」にかなりこだわった基準が目立ちます。スコッチの法定義にわりと似ていますね。

海外の原酒を使った良ブレンドがある!

海外のモルト原酒を使った良ブレンドがある!

 

さあ、ここからが本題。つまりここまで見てきた自主基準によると、「ジャパニーズウイスキーと名乗るには海外の原酒を使ってはいけない」ということになります。ところが、この「海外から輸入した原酒」によって、個性的なブレンドを生み出している銘柄が、日本には多数あるんですよ。

たとえば滋賀県の長濱蒸留所の「アマハガンシリーズ」は、国産のモルト原酒と海外産のモルト原酒を混合した、ブレンデッドモルトのシリーズに定評があります。

もう一つ重要なのは、サントリーやニッカウヰスキーは、それぞれボウモア蒸留所やベン・ネヴィス蒸留所など海外の名だたる蒸留所を所有しています。だからこれらのメーカーのブレンデッドには、必然的に海外の原酒がわりと使われているんですね。

極端な例では、5大ウイスキーを全て混ぜ合わせたサントリーの銘柄「碧Ao」なんてのもあります。

次回は「代表的な蒸留所」をご紹介!

今回で、ひとまずジャパニーズウイスキーがどういったものなのか、大枠をつかんでいただけたかと思います。次回はひと記事まるまる使って、日本を代表する蒸留所をどどんと紹介してきますよー!
 

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