ウイスキーってどんな酒? Vol.09 「アイリッシュウイスキー ~3回蒸留とブレンドの技~」
ウイスキーの知識
アイリッシュウイスキーとは、その名の通り、アイルランドで製造されるウイスキーです。
名前の似ているスコッチの”アイラ”とは、全く別物なのでご注意を。むしろ、ピートのインパクトが強いアイラとは真逆で、比較的軽くて飲みやすい酒質のものが多いんです。
アイリッシュには、モルト、グレーンもあるのですが、今回はアイリッシュを特徴づけている「ポットスチルウイスキー」と「アイリッシュブレンデッドウイスキー」をメインにご紹介します。
ひとつの蒸留所がシングルモルト、ポットスチル、ブレンデッドなど分類の異なる製品を造っているところが多いのも特色なんですよ。
コンテンツ
アイルランドってどんな国?
アイルランドは北大西洋に浮かぶ「アイルランド島」の大部分を占める共和制国家。
グレートブリテン島の西側に位置し、島の北東の一部は北アイルランドという別の国で、こちらはイギリスに含まれます。
人口490万人ほどの国で、全人口の約4割が首都ダブリン近郊に住んでいます。先住民であるケルト人の文化が今も息づいていて、古代ケルトの祭りが起源のハロウィンや、ケルト音楽、羊毛などが特に有名ですね。
「ギネスビール」発祥地でもあり、アイリッシュパブのイメージが強い方もいらっしゃるのではないでしょうか。
発祥→没落→復活の歴史
アイリッシュウイスキーは、5大ウイスキーのなかでも特に紆余曲折の歴史を辿ってきました。ここではそれをダイジェストでなぞってみましょう。
起源はスコッチより古いという説も!
アイルランドで、ウイスキーの存在が確認された最も古い記録は1172年。スコットランド王室の公式文献が1494年ですから、300年以上も前ということになります。
これは、当時イングランドを治めていたヘンリー2世がアイルランドに攻め入った際、現地の人々が大麦を原料とする蒸留酒を飲んでいた、というものです。
しかし、あくまで“伝え聞いたことを記録したもの”で、オフィシャルな記録としては信憑性が足りないという声もあるんですね。
禁酒法をきっかけに没落
18世紀の全盛期には、国内に大小合わせて2000とも言われる数の蒸留所がありました。
しかし、1920年を境に急落が始まります。消費の中心だったアメリカで、「禁酒法」が発令されたのです。さらに1922年のアイルランド内戦で経済力が低下。
続く第二次世界大戦の煽りを受けて、1980年代には閉鎖や統合が進んだ結果、蒸留所はなんと2つにまで減ってしまいました・・・。
2010年代に復活の兆し!
しかし2010年を過ぎたあたりから、ウイスキーブームの波に乗って、アイリッシュ独自の製法が世界的に再注目され始めました。
生産量が少なめのいわゆる「クラフト蒸留所」が各地で続々と生まれていて、2022年時点では準備中も含めると50以上の蒸留所が点在しているんですよ。
では、そんなアイリッシュの独自性とはどんなものなのか? 下記で見ていきましょう。
ポットスチルウイスキー
3回蒸留と、原料に未発芽の大麦を混合
アイリッシュ独自のウイスキー分類が、「ポットスチルウイスキー」。ポットスチル、つまり単式蒸留器を用いて主に3回蒸留するんですね。
蒸留法もさることながら、原料も独特。ピートを焚かずに乾燥させたノンピートモルト(大麦麦芽)に、バーレイ(未発芽の大麦)をそれぞれ30%以上、そのほかライ麦や小麦、オート麦などが混合されます。
味わいの特徴は、原料の配合からくる“独特のオイリーな風味”。穀物感も強めです。加えて、3回蒸留が主流なためボディは比較的ライトで、熟成期間も短い傾向にあります。
また、シングルモルト同様、ひとつの蒸留所内の原酒を混合して仕上げられる銘柄は、「シングルポットスチルウイスキー」と呼ばているんですよ。
代表的な蒸留所
- レッドブレスト
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昨今のアイリッシュ復活を支えるブランドのひとつ。ボディはミディアムくらいで、シングルポットスチルにしてはしっかりとしている印象。
持ち味のオイリーさが、穏やかかつ上品にまとめあげられています。
- ティーリング
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首都ダブリンに2015年にオープン。ラベルのモチーフはずばり「不死鳥」。
アイリッシュウイスキー衰退時に市内の蒸留所が全て閉鎖してから、実に125年ぶりにダブリンによみがえった蒸留所です。オイリーとフルーティーなフレーバーが同居する、ライトで若々しい味わい。
アイリッシュブレンデッド
ポットスチルを絡めたブレンドが特徴的
アイリッシュのもう一つの特色は、多彩な原酒を使ったブレンドにあります。日本でよく目にする銘柄は、むしろこちらのほうが多いでしょう。安価で手に入りやすいのも魅力です。
冒頭でも少しふれた通り、アイルランドには、複数の分類の原酒を仕込んでいる蒸留所が多いんですね。それらを自在に組み合わせるのが、アイリッシュブレンデッド最大の特色なんですよ。オーソドックスな「モルト+グレーン」だけでなく、「ポットスチル+グレーン」のバリエーションは、ほかではなかなか味わえないブレンドです。
代表的な蒸留所
- ジェムソン
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アイリッシュウイスキー全体の中でもシェアの大きい、「No.1アイリッシュ」の呼び声高いブランド。
やわらかいナッツ感とオイリーさが、なめらかに溶け合います。初心者にも親しみやすく、水割りかソーダ割りにするとスムースな持ち味がより引き立ちますよ。
- ブッシュミルズ
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メイン銘柄の「ブラックブッシュ」は、アイリッシュ伝統の3回蒸留で仕上げたモルト原酒と、グレーン原酒をブレンド。
軽めのボディながら、豊かな果実味と深みのある熟成香を両立した逸品です。ぜひストレートかロックで。
- タラモアデュー
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アイリッシュのなかでの売り上げは、ジェムソンに次いで第二位。モルト、グレーン、ポットスチルの3種の原酒をブレンドしています。
トロピカルなニュアンスもある、クリーミーな甘みをしっかりと感じることができます。
次回は「カナディアン」を解説!
スコッチと発祥を争うアイリッシュですが、その特色は大きく違うものでしたね。
さて次回は、5大ウイスキーのなかで最もライトな酒質と言われる、「カナディアン」をご紹介します!
ウイスキーってどんな酒?
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