「きょうかい1号酵母」×「山内杜氏」で夢の100年コラボ! ~秋田県横手市 ”山内杜氏組合創立100周年記念酒”~

イベントレポート

「きょうかい1号酵母」×「山内杜氏」で夢の100年コラボ! ~秋田県横手市 ”山内杜氏組合創立100周年記念酒”~

2023年4月22日、秋田県横手市の「山内杜氏(さんないとじ/さんないとうじ)組合」より、組合設立100周年記念酒として秋田県内10蔵が参加する限定酒をリリースしました。

名づけて「知新温故プロジェクト」。100周年記念にちなみ、同じく約100年の歴史を持つ清酒酵母「きょうかい1号酵母」を、参加蔵すべてが使用してお酒を造っています。

 

およそ1世紀の歴史を持つもの同士の夢のコラボ酒。

山内杜氏とは?きょうかい1号酵母とは?はたまた、出来上がった記念酒はどんな味わいなのか、一緒に紐解いてみましょう。

 

そもそも「杜氏」とは?

酒造りをおこなう蔵人たちの最高責任者を「杜氏」と呼びます。

その他の醸造酒と比較しても非常に複雑で難しい工程の日本酒造りにおいて、杜氏は技術力、経験に基づく判断、蔵人たちをチームとしてまとめる人格と管理能力が必要とされる重要な存在です。

 

現在の杜氏に繋がっていく流れとしては、江戸時代初期に遡ります。17世紀後半に寒い冬に酒造りをおこなう「寒造り」の技術が灘で確立し、酒造りに冬季限定の労働力が必要となりました。

そこで冬に仕事のない漁業や農業などに従事する人々が、その期間出稼ぎに蔵へ入るというルーティンが生まれていき、各々の蔵で培った技術について情報共有をおこなっていくことで高度な醸造技術力を確かなものとする技術集団が生まれます。これが杜氏集団と呼ばれました。

 

日本酒・枡

 

その当時は、季節労働者としての契約だった杜氏や蔵人たちも、時代の移り変わりとともに形態が変わっていき、通年雇用の社員杜氏、社員蔵人、また酒蔵のオーナーである蔵元が杜氏を兼任する蔵元杜氏などの形が増えています。

日本三大杜氏と呼ばれる兵庫県の「丹波杜氏」新潟県の「越後杜氏」、岩手県の「南部杜氏」をはじめ、全国各地に伝統を受け継ぐ杜氏集団が現存し、地域によっては、2006年発足の栃木県「下野杜氏」のように新たに創設されたものもあります。

また現在では「酒造技能士」という国家資格もあり、多くの杜氏がこの資格を有しています。

「山内杜氏」とは?

「山内杜氏」とは現在の秋田県横手市を発祥とする杜氏集団です。

明治末期以降秋田県の酒造りが発展し、酒蔵において労働力が必要となったときに、農村部だった山内村(当時)で、冬に仕事が激減する農業従事者が高賃金であった酒蔵での出稼ぎに出る、というフローが定着したのが始まりの農村型杜氏集団です。

その後大正11年(1922年)に、よりスムーズな杜氏・蔵人育成と醸造技術向上を目的に「山内杜氏養成組合」が発足。戦時下で一旦事業はストップしますが、再発足や改称を経て昭和34年に現在の「山内杜氏組合」となります。

 

秋田県横手市「横手ゆき祭り」

秋田県横手市「横手ゆき祭り」

「きょうかい1号酵母」とは?

さて、今回の記念酒に使用された、同じくおよそ100年の歴史を持つ「きょうかい1号酵母」ですが、こちらは明治36年(1906年)に兵庫県・灘の「櫻正宗」の酒母より分離されたものです。

それ以降、清酒酵母の培養や頒布が精力的におこなわれ、香味特性や安全性に優れた清酒酵母が増えていったことによって、大正5年(1916年)から、優良な清酒酵母の第1号「きょうかい1号酵母」として日本醸造協会より頒布されました。

 

ですが時は移り変わり、着々と新たな酵母が発見・培養され、醸造技術も向上していくとともに、使用される機会が減っていき、昭和10年(1935年)には頒布が終了しています。

その後はその名前だけが残る幻の酵母だと思われていたのですが、実は協会には保存株が存在していたことがわかり、そのルーツである「櫻正宗」が1号酵母を復活使用し、当時の製法で酒造りをおこないました。

明治のロマンと令和の技術が溶け合う「知新温故」プロジェクト

そんなきょうかい1号酵母は、山内杜氏も組合設立当初に使用していた酵母です。それを、令和の技術で蘇らせようと取り組んだのが、山内杜氏組合の創立100周年「知新温故」プロジェクト。

当時の最先端の酵母とはいえ、その頃は酒造りには食米を使用し、醪はほぼ常温。きょうかい1号は当時としては低温下での発酵に向いていたそうですが、それでも現代とはまったく造りが異なっています。

 

歴史から掘り起こされた酵母を使い、そこに現代の酒米と醸造技術を組み合わせる。

まるでお酒で時間旅行を体験できるかのようなプロジェクトです。

 

プロジェクトに参加した10蔵

プロジェクトに参加した10蔵

 

この胸弾むポロジェクトに参加したのは、組合長を務める照井俊男杜氏擁する「阿櫻酒造」をはじめとする10蔵。

 

同じ酵母を使用しつつ、それぞれの蔵が使用米や製法で個性を発揮していきます。プレスリリースも2月、4月と二度にわたっておこなわれ、意気込みがうかがえます。

 

今回は、この10本のきょうかい1号酵母仕込み記念酒の中から、

  • 阿櫻 純米大吟醸 一穂積50%(阿櫻酒造)
  • 白瀑 純米大吟醸(山本酒造)
  • 天花 純米吟醸 無濾過原酒(大納川)
  • 出羽鶴 生酛純米吟醸 一穂積 CLASSIC(出羽鶴酒造)

の4本を筆者が入手し、それぞれをテイスティングしてみました。

 

1号酵母×山内杜氏の現代技術のコラボ酒は、どのような味わいなのでしょうか。

きょうかい1号酵母仕込みの記念酒をテイスティング

さて、4本を一度にテイスティングしてみたのですが、まず驚いたのはどのお酒もかなり似たベクトルの香味を持っている点。また、それぞれ穏やかながら吟醸香の華やかさがきちんとあること。

 

きょうかい1号酵母仕込みの記念酒をテイスティング

今回入手した4種

 

きょうかい酵母は数字が若いほど古いものなので、基本的に一桁前半でナンバリングされている酵母は、現代の清酒酵母のような派手さや華やかさはないと言われています。

ですが、いかにも今どきではないものの、どの蔵のお酒からも確実にいちごなどのベリー系の香りが感じられます。また味わいも総じて果実味のある酸がしっかり効いています。

かといって甘さは強すぎない、という点もそれぞれのお酒に共通しています。

阿櫻 純米大吟醸 一穂積50%(阿櫻酒造)

阿櫻 純米大吟醸 一穂積50%(阿櫻酒造)

 

ひとつひとつ、改めて確認していくと、「阿櫻」のお酒は、ほんのりと焼き菓子のようなニュアンスや、ミルクやホイップといった香味も感じられ、筆者の個人的な感想としては、4本の中では洋菓子のようなイメージでした。ほか3本のお酒より少し甘めなことが関係しているのかもしれません。

白瀑 純米大吟醸(山本酒造)

白瀑 純米大吟醸(山本酒造)

 

「白瀑(山本)」のお酒は4本の中では一番食中酒らしさがあり、ドライな方向性。微かにガスも含まれていることで酸味やキレが増し、天然水のベリー系フレーバーウォーターのよう。

天花 純米吟醸 無濾過原酒(大納川)

天花 純米吟醸 無濾過原酒(大納川)

 

「天花(大納川)」は、果実味が一番強めに感じられます。ベリー以外にもピンクや赤い色のフルーツがミックスされているようなイメージ。後半まで味わいの骨格が変わらないのも特徴です。

出羽鶴 生酛純米吟醸 一穂積 CLASSIC(出羽鶴酒造)

出羽鶴 生酛純米吟醸 一穂積 CLASSIC(出羽鶴酒造)

 

そして「出羽鶴」も同じくベリー系。ほか3本に比べると少しだけアルコール度数が少し高め(16度)です。

秋田の新品種の酒米「一穂積」が使用されていて、前半は一穂積の特徴ともいえる軽さが出ていますが、後半にはアルコールが高めな分の苦味が覗きます。ガスのしゅわっと感も感じられいちごソーダといった印象です。

 

どれも想像よりかなり現代的。「100年前の杜氏がこのお酒を飲んだらどんな顔をするのだろうか?ぜひ飲ませてあげたい!」という気持ちになります。

また逆に「当時の造りのお酒を飲んでみたい」という思いもわいてきます。

100年の時間は決して巻き戻したり早送りしたりはできませんが、夢見ることを楽しめるお酒です。

気になったら、夢のお酒をぜひ一度。

この記念酒が気になった方。数量限定品なので、既にオンライン等では完売しているのがほとんどですが、2023年6月現在、秋田県内の名産品店やスーパー、酒屋などでまだ買えるところがあるようです。また、記念酒として以外にも1号酵母を使用したお酒をリリースしている参加蔵もありますので、探してみてください。

そして、記念酒が手に入らずとも、きょうかい1号酵母のルーツである「櫻正宗」でも「櫻正宗 焼稀」など、1号酵母を使用したお酒が販売されています。こちらを飲んでルーツを探ってみるのもいいかもしれません。

 

みなさんもぜひ、お酒を片手にタイムトラベラーな気分を楽しんでみてください。

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