「純米酒」との出会いを与えてくれた漫画『夏子の酒』米と麹、水だけで醸す全量純米酒蔵。-三重県 森喜酒造場-
酒造・メーカー紹介
森喜酒造場について
米と麹、水だけで醸す全量純米酒蔵
「森喜酒造場」は、明治30年創業。1998年より醸造用アルコールを一切添加しない、米と麹、水だけで醸す手造りの「純米酒」のみを造っています。
純米酒は真っ正直な酒。酒を造る側の私たちが本当に飲みたいと思う酒を追究していった結果、造る酒全てが「純米酒」になりました。
目指しているのは香りは控えめで、時にひや、時に燗でお料理に寄り添って楽しんで頂ける食中酒。300石の少量生産だからこそ出来る限り手をかけてお酒を造っています。
『夏子の酒』という漫画をご存知でしょうか?
これは漫画家・尾瀨あきら先生のロングセラー・コミックで、酒蔵を継ぐはずだった兄が亡くなったため、東京での編集者生活をあきらめた主人公・夏子が故郷・新潟へ帰り、兄の遺志を継ぎ幻の米で究極の純米酒を醸していくというストーリーです。
「森喜酒造場」の代表銘柄である「るみ子の酒」が誕生するきっかけとなった漫画、そして「純米酒」との出会いを与えてくれた漫画でもあります。
『夏子の酒』と『るみ子の酒』
1960年、「森喜酒造場」専務「森喜 るみ子氏」は造り酒屋の長女に生まれ、大学を卒業後、製薬会社に勤めていました。ところが、父が脳梗塞で倒れ、会社を辞めて急きょ結婚。1989年からは夫婦で蔵へ入り、杜氏の指導を受けて酒造りを始めました。
長男、次男と続けて生まれてきた幼子を育てながらの蔵での生活でしたが、そんな矢先に当時、売上のほとんどを占めていた大手メーカーから取引の打ち切りを宣告され、廃業の危機に立たされました。
どうしたらいいのか悶々としていた時に出会ったのがこの『夏子の酒』。主人公は自分と同じ造り酒屋の跡取り娘。境遇が似ていて、思い悩む姿に共感。
『地方の蔵のことがあんなに詳しく書いてあるとは。一冊目を読み進める途中から涙がボロボロ出て止まらなかった。いいお酒を造りなさい。真正面からぶつかればきっと理解してくれる飲み手がいると背中を押される気分になりました。』あふれる思いを手紙に書き、原作者の尾瀬先生に送りました。
すると一週間ほどして本人から返事が届き、純米酒蔵として知られる「神亀酒造」(埼玉県蓮田市)の小川原専務を紹介されました。
初めて「神亀酒造」の純米酒を飲み、『はじめは少しひねたお酒だと思ったが、お燗にしてみると、すごい透明感が出てくる。純米酒には包容力がある。行き着くところはここだと思った。神亀の酒造りは基本的なことを忠実に実行していて、決して奇をてらわないことにも驚かされました。』
造る全ての酒が純米酒
「次の造りは純米にしよう。」と決め、1992年からタンク二本を仕込みましたが分からないことだらけ。
小川原専務をはじめとする蔵元や酒屋さんが蔵仕事を手伝ってくれたり、アドバイスをしたりと素敵なつながりが生まれ、そんな状況の中ようやく出来上がったお酒を尾瀬先生が「るみ子の酒」と名付けました。ラベルのデザインも尾瀬先生のご厚意によるものです。
その後、無農薬の山田錦を栽培するようになり、1998年からは「造る全ての酒が純米酒」という「全量純米酒化」を果たしました。
こだわりとしては、自社田及び契約農家(1軒)で栽培した無農薬、化学肥料なしの山田錦のみで醸した純米酒を「英(はなぶさ)」シリーズで販売。
麹、酒母造りに力点を置き、麹は全量麹蓋法、速醸酛の他山廃、生酛を漸増しています。
文:日本酒鑑定士協会 瀧村健治
編集:LIQLOG