淡麗豊潤な食中酒を目指し続ける。~静岡県 英君酒造~
酒造・メーカー紹介
駿河湾を眺めつつ国道一号バイパスを走ると、歴史情緒を感じさせる由比に辿り着きます。
桜エビで有名な由比の大通りから、山に向かって少し登ったところに蔵を構えるのが明治14年創業の英君酒造です。
筆者の記憶で「桜エビのかき揚げとぴったりだったなぁ」と、今でも余韻を思い出せる英君のお酒。
海と山に挟まれた穏やかな土地で丁寧に酒造りを行っている英君酒造の望月代表にお話を伺いました。
コンテンツ
酒造りの原点
ところがその後、大雨の影響で山水の水源が絶たれてしまう出来事が起こります。酒造りにとって水はとても重要な存在です。
ピンチかと思いきや、天の恵みという言葉がふさわしいような偶然が重なります。
天の恩恵を受ける
望月代表
敷地内に古井戸があるのですが、そこから毎分2000ℓの湧水が出ていることが分かったんです。しかも、調べてみると発酵を促してくれるミネラル分の多い中硬水の水。
つまり、酒造りに適した湧水だということが判明したんです。
中硬水で仕込んだお酒は、ミネラル分が多いため少し酸度の高い酒質になります。同時に、味わいに幅を持たせられる豊かな可能性も秘めているのが特徴。
ここに、淡麗豊潤な日本酒造りを目指す英君酒造の魂が込められていきます。
食事と相性の良い淡麗豊潤
望月代表
香りが華やかでフルーティなお酒は単体で飲むのは良いかも知れない。ほのかな香りも楽しみつつ、食事と合わせて楽しめるお酒が造りたいんです。
食べて飲んでも杯を進められるバランスの良い食中酒を目指しています。
香りと味わいのバランスを支える酵母選びも欠かせない要素です。使用する静岡酵母の特徴は、バナナやメロン・マスカットのような爽やかな香味。
吟醸王国しずおかと呼ばれる所以の一つが静岡酵母の存在なのです。
静岡酵母で醸す香りと味わいのバランス
望月代表
静岡酵母は爽やかな香味と控えめに香るのが良いんです。
食事を邪魔せず、心地の良い香りも楽しめる。そこに静岡の誉富士や契約農家で栽培している山田錦・雄町を掛け合わせて、香りと骨格がしっかりとした味わいのバランスを目指しています。
食中酒、そして淡麗豊潤という言葉に込める望月代表の静かな熱意が感じられます。
お酒造りで大事にされている工程を伺ってみました。
理想の食中酒にかける想い
望月代表
兎にも角にも洗いです。お米を洗う作業を徹底的に行っています。少しでもぬかが残ってしまうと余分な雑味に繋がるからです。
お米を5kgづつに分けてぬかが残らないよう2度洗っています。手間はかかりますが、バランスの取れたお酒造りには大事なことなんです。
自らの思い描く酒質を目指して手間を惜しまず、丁寧に取り組まれている姿勢が垣間見えます。
また海外輸出や国内での酒質安定を視野に入れた設備投資も行っており、常に前を向いて一つひとつの課題をクリアしていく実直な姿勢が感じられます。
創意工夫が生み出す未来図
望月代表
特に海外など、どの場所で飲んでも英君のお酒の新鮮な風味を保てるよう、瓶内の酸化を防ぐ窒素充填の機械も導入しました。
毎年、少しづつですがお客様に日本酒の良さを届けられるよう工夫しています。
目の前に広がる駿河湾は豊富な海産物に恵まれており、由比の漁港ではしらすや桜エビをはじめ多くの魚介類が水揚げされます。
英君酒造のお酒にどんな食事が合うのか聞いてみました。
英君のお酒とぴったりなアテ
望月代表
やはり海産物に恵まれた土地ですから、新鮮なしらすや桜エビ、静岡ならではの黒はんぺんも良いですね。鯛や鯵なんかも合いますよ。
調理の方法はその時、そのお酒に合う方法でペアリングを自由に楽しんでもらえたら良いのではないでしょうか。
しらすや桜エビは新鮮なものをそのまま食すのはもちろん、かき揚げもおすすめ。黒はんぺんは醤油で焼いたり、フライにしたりと自由な食べ方があります。
静岡を訪れた際は日本酒のお供にぜひお試しあれ。
守りたいもの、そしてチャレンジしたいこと
最後に酒造りにおいて守っていきたいもの、そしてチャレンジしていきたいことをお伺いしてみました。
望月代表
うちの芯は一貫して食中酒です。爽やかな香りと料理を引き立たせ合う味わいのバランス。食事と一緒に楽しめる日本酒造りはブレずにやっていきたいところです。
お酒も美味しいし、食事もさらに美味しいと相乗効果を生み出せる酒質を目指しています。
チャレンジに関しては、まだ英君の酒が完成されているとは思っていないので、今年も変化のあるお酒造りを試しています。
英君の食中酒というひとつの軸は置いておきながら、どんどんチャレンジしていきたい。爽やかな香味と料理が引き立て合うバランスの部分を大切に、少しづつ遊びを取り入れていきたいですね。
英君酒造から感じた魅力
静岡の誉富士をはじめ、契約農家と生み出す山田錦や雄町、その他全国から取り寄せるお米を用いて、静岡酵母で醸す英君酒造の日本酒。
望月代表の確固たる信念を感じさせる骨太の魅力と、少年のように遊び心を取り入れる柔軟な姿勢が相まって、英君酒造が求めるバランスの良さを体現しているような印象でした。
遊び心で醸す新感覚の日本酒
オーソドックスな英君スタイルはもちろんですが、今回は望月代表の遊び心が満載の一本をご紹介いたします。
東京・西麻布にあるEUREKA!の千葉麻里絵さんと共同で開発された「EIKUNholic(エイクンホリック)」。糖尿病患者用の炭水化物の含有量が少ない「みずほのか」というお米を使用して造られています。
ライチやマスカットの香りを楽しめるまるで白ワインのような日本酒。アテはなんとナッツやドライフルーツ、特にドライマンゴーがおすすめとのこと。日本酒としては中々珍しい組み合わせです。
英君酒造の新たな一面をぜひご自身の舌で味わってみませんか。
望月代表
5代前のご先祖様が本家より土地を譲り受けた場所で酒造りを始めました。辺りは田んぼもなくお米を集めるのに奔走していたようです。
しかし、蔵から3kmほどのところにある山水に恵まれ、酒造りを続けることができたんですね。