日本ワインはどんなブドウから造られている? ~ワインの味の違いのもと、ブドウの話⑥~
ワインの知識
日本のワイン造りの歴史は明治時代に始まりました。
そのころから、先人たちはワイン造りに適したブドウは日本に無いのか?問い続けていました。
ワインの味はブドウによって大きく異なるからです。
そして、日本の気候に合い、美味しいワインになるブドウを造り出したのです。
今回ご紹介するブドウは「日本で交雑・交配されたブドウ」です。
交配・交雑についてはこちらもご覧ください。
日本特有の交雑・交配品種
マスカット・ベーリーA
1927年、新潟県の「岩の原葡萄園」の創業者、川上善兵衛がアメリカ系品種のベーリーとヨーロッパ系品種のマスカット・ハンブルグを交雑して生まれました。生食用と兼用です。
「マスカット・ベリーA」と呼ばれることもあります。
ただ、川上善兵衛自身が発表した論文には「マスカット・ベーリーA」とあること。英語表記は「Muscat Bailey A」であることから「マスカット・ベーリーA」と呼ぶ方がいいでしょう。
粒と房は大きく、果皮は薄めです。芽が出るのが比較的遅いので、春の降霜を避けることができる一方、果実が熟すのが早いので、秋の降霜も避けることができます。
寒さや湿気の多さにも強く、病害にも強く、日本の気候に適しています。糖度の20度前後に達するので、まさにワイン向きのブドウです。
川上善兵衛、本当に日本に合うブドウを造り出したのですね。
川上善兵衛氏とは?
1868年新潟県に生まれました。
勝海舟と交流する中で、明治期の殖産興業の思想に感動し、ワイン醸造が農民の収入アップにつながると考えました。
ナイアガラやキャンベル・アーリーをアメリカから輸入して、自宅の庭園に植えました。そして、日本の気候に合ったブドウを生み出すべく、10,000株以上育成したと言われています。
その中で出来た一つがマスカット・ベーリーAだったのですね。
のちにサントリー創業者の鳥井新次郎と共同で山梨県に寿屋山梨農場を造り、現在の「登美の丘ワイナリー」となっています。
そこでマスカット・ベーリーAが山梨県に導入されたのです。
また、川上は生み出したブドウを頼まれればどんどんブドウ園に提供したり、ブドウの栽培についての本「葡萄提要」などの本を書いたりしました。これらのことから「日本ワインの父」や「日本のブドウの父」と呼ばれています。
2013年に甲州に次いで「O.I.V.(国際ぶどう・ぶどう酒機構)」のリストに登録されました。ワイン醸造用のブドウとして、国際的に認められたのです。
O.I.V.に認定されたということは、ヨーロッパへの輸出も可能となり、「甲州ワイン」同様、世界に「マスカット・ベーリーAワイン」を広めることができるのです。
マスカット・ベーリーAの香り・味
皮の裏側に色素が多くあり、ブドウをつぶす作業の破砕の時に色がけっこう出ます。ただ色素量は多いわけではないので、ワインの色は明るくなります。
味は生き生きとした果実味と酸味、渋みは穏やかで柔らかなタンニンです。フルーティーさが際立つワインです。
マスカット・ベーリーAの特徴的な香りとして「イチゴキャンディ」のような香りがします。これは「フラネオール」という成分が理由です。
他にも、バナナやシナモン、綿菓子のような香りと全体的に甘い香りが特徴です。
また、アメリカ系品種のブドウから造られていることから特有の「フォクシー・フレイバー」という香りを持ちます。こちらはワイナリーによって目指すワインのスタイルによって強調するかどうかは変わります。
フォクシー・フレイバーについてはこちら。
- 日本ではどこで造られる?
- 日本全体でも甲州に次いで2番目の多さ、赤ワイン用ブドウとしては1位の生産量です。
山梨県が最多で全国の54.4%を占めています。「2位 山形県」「3位 長野県」と続きます。その他にも、広島、岡山、島根などでも造られています。
赤ワインはもちろん、ロゼ、スパークリングワインも造られています。
産地もタイプも色々と試してみたいですね。
ブラッククイーン
こちらも川上善兵衛によって1927年ベーリー種とゴールデン・クィーン種との交配品種です。
濃い黒紫色の果皮で、冷涼な地域でもしっかりと糖度をあげるブドウです。酸味もしっかり、重厚感のあるワインが造れるブドウです。
ブラック・クィーンの香り・味わい
プラムやブラックベリーなどの黒系の果実の香り。バニラやチョコレート。ほんのりスパイスも感じられます。
程よい酸味にしっかりとしたボディ。ボリューム感のある味わいです。本格派の赤ワインという感じです。
- 日本はどこで造られる?
- 「1位 長野県」「2位 山形県」「3位 山梨県」で造られています。
日本全体では1.8%、赤ワイン用ブドウでは第6位の生産量です。
ヨーロッパ系品種のような本格派の赤ワインとなりますので、食事との相性がとてもいいです。
日本食ともよく合います。肉じゃがやすき焼き、ビーフシチューなどにも合うので、食事とのマリアージュを楽しんでみてください。
珍しい品種の一つだと思うので、見つけたらぜひ試してみてください!
巨峰
1937年大井上康が交配した生食用のブドウです。
石原早生(欧・中東系品種×アメリカ系品種)とセンテニアル(欧・中東系品種)の交配で最初は「石原センテニアル」という品種名でした。ただ、商品名の「巨峰」の名前が広く知られていてので、今では品種名にもなりました。
大井上康が研究所から見える富士山の雄大な景観にちなんで「巨峰」と命名されたと言われています。
果実が大きいのが特徴です。生食用としては「葡萄の王様」とも呼ばれていますね。
果皮が薄いので、香りや酸味も弱く、ワインにはあまり向かないとされていました。
巨峰の香り・味わい
巨峰らしい、ブドウの香り。花やナッツの香り。穏やかな酸味と渋み。ほのかな甘みや旨味を感じられます。
- 日本ではどこで造られる?
- 日本ワインでは1.5%で赤ワイン用品種では第8位です。
長野県、山梨県で造られています。
中甘口から甘口が多いです。サラダなど野菜と相性がいいです!
ブドウの美味しさをそのまま味わえるようなワイン。
飲んだことがない人も多いのでは?見つけたら味わってみてくださいね。
日本ワインの原料のブドウは、ワインと同じくその多様性が特長です。
地域性もさることながら、ブドウの違いも楽しんでください!
お気に入りのワインを見つけてくださいね。