日本ワインはどんなブドウから造られている? ~ワインの味の違いのもと、ブドウの話⑤~
ワインの知識
ワインの味の一番の違いは造られるブドウによって違います。
5回目の今回は日本ワインの代表的なブドウである、「東洋系品種」をお届けします。まさに、日本独特の品種といってもいいブドウ。これらから造られる日本ワインはどんな感じになるのでしょうか?
それでは見ていきましょう。
東洋系品種
甲州
日本で一番造られている白ワイン用品種が「甲州」です。甲州は東洋系品種の代表格ですね。東洋系品種とは日本固有の土着品種や中国産の品種です。
果皮は厚く、紫がかったピンク色で、白ブドウというよりグリ(灰色)系とも呼ばれます。耐病性もあり、樹勢も強いです。
2010年に「O.I.V.(国際ぶどう・ぶどう酒機構)」のリストに登録され。ワイン醸造用のブドウとして、国際的に認められました。
O.I.V.に認定されたということは、ヨーロッパへの輸出も可能となり、世界に「甲州ワイン」を広めることができるのです。
甲州の起源は確かな記録がなく、2つの説があります。
- 起源① 雨宮勘解由説
- 一般的に知られているのは「雨宮勘解由(あまみやかげゆ)説」です。
甲斐国八代郡祝村(現在の甲州市勝沼町)に住む雨宮勘解由が1186年に付近の山の「城の平」で見つけたブドウを改良し、甲州ブドウの元を造ったという説。
- 起源② 大善寺説
- もう一つは「大善寺」が発祥という説です。勝沼ぶどう郷駅からタクシーなら5分ほど、歩くと15分ほどの場所にあるお寺で、「ぶどう寺」とも呼ばれています。
大善寺について
お寺が開かれたのは718年のこと。
行基という有名な僧によってです。行基は奈良時代に活躍した僧で、日本各地で貧しい人のために社会事業を行ったりしました。
一番有名なのは聖武天皇に請われ、東大寺の大仏建立に尽力したということでしょう。
その行基が甲斐の国に訪れた時、日川渓谷の岩石の上で祈願を続けていたところ、右手にブドウを持った薬師如来が霊夢に現れたとのことです。そこで行基はこの地に大善寺を建て、ブドウの種を日川流域にまき、甲州ブドウの栽培方法を村人たちに教えたというものです。
今でも大善寺のご住職は、ワインも造っています。日川周辺は現在ももちろん素晴らしい甲州の産地です。
大善寺のご本尊は葡萄を持った薬師如来像です。
いつ行っても見ることができるわけではなく、5年に一度です。今年(2023年)の秋には見ることができるので、ぜひ拝見したいですね!
結局、甲州はワイン用ブドウ
いずれの説も伝説の域を出ませんでした。ところが2013年に酒類総合研所の後藤奈美氏が甲州のDNAを解析し、ルーツを解明しました。
甲州にはワイン用ブドウである「欧・中東系品種(ヴィティス・ヴィニフェラ)」を主として、中国の野生種であるヴィティス・ダヴィーディ(Vitis Davidii)も3割含まれていることが分かりました。
美味しいワインが造られる「甲州」には「欧・中東系品種」が含まれていたのです!まさに「ヴィティス・ヴィニフェラ=ワインを造るブドウ」だったのです。
中国野性種のヴィティス・ダヴィーディは枝にとげがあるそうで、実際、甲州の枝の付け根にも小さなとげがあります。
結果「甲州はカスピ海付近で生まれ、中国を渡り、何千年をかけ中国の野生種と交雑しながら日本に伝わってきた」ということになりますね。
甲州の香り・味わい
グレープフルーツや白い花の香り。日本酒のような吟醸香もすることがあります。スッキリした酸味の中に、上品な旨味のある辛口タイプが主流です。
ブドウの糖度があまり上がらないので、アルコール度数も低く、穏やかな味わいとなります。日本食にピッタリな印象ですね。
- 日本ではどこで造られる?
- やはり、甲州ブドウ発祥の地の山梨県がダントツ1位です。白ワイン用品種では全体の15.3%で1位を誇ります。
昭和初期は全国に広まりつつありましたが、現在は山梨県に集中しています。
2位は意外にも島根県です。明治時代に各地で甲州ブドウの栽培が試みられた名残りで、日本ワインコンクールでも島根の甲州が賞を取ったこともあります。ちなみに3位は山形県です。
甲州は土地の影響を受けたり、収穫時期の違いにより、ワイナリーごとに色んな味わいを試すことができます。さらに、果皮と共に発酵させた、いわゆるオレンジワインも最近では造られています。
色んな甲州を試す楽しみがありますね。
善光寺
その名の通り、長野県の善光寺周辺で栽培されたことに由来した名前がついています。また、「竜眼」とも呼ばれています。
竜眼は元々欧・中東系品種(ヴィティス・ヴィニフェラ)でカスピ海あたりで生まれて、中国を渡って伝わったと言われています。甲州と似ていますね。
元々は食用として好まれており、果皮は紅紫色で粒も大きく、果肉は柔らかくて酸度が高いです。
なるほど、粒の大きいところは食用にいいですし、酸度が高ければ、ワイン造りに合いますね。
1960年代にマンズワインが長野で本格的に栽培を始めて、甲州と同じように素晴らしいワインができることが分かりました。
善光寺の香り・味わい
独特なエキゾチックな香りが華やかに感じられます。爽やかな酸味と穏やかな味わいです。上質な日本酒のような風味もあります。
やっぱりこちらも日本食、長野らしく、そばとも相性がいいですよ!
- 日本はどこで造られる?
- やはりそのほとんどが長野県での生産です。全体では0.8%、白ワイン用ブドウでは第8位の生産量です。
珍しい品種の一つだと思うので、見つけたらぜひ試してみてください!
日本ワインを造るには、東洋系品種が合う!
日本ワインを造るには、気候的にはやっぱり東洋系品種が合うのかもしれませんね。
甲州は色々な味わいのものがあります。善光寺(竜眼)も美味しいスパークリングワインもありますので、たくさん飲んでみてください!
次回も日本ワイン特有の、日本で交配・交雑されたブドウ品種を見ていきます。