ひとりでも遊べる・学べる!日本酒専門店を探訪しよう①-「佳酒旬肴 のすけ」(明大前)
店舗紹介
コロナ禍による生活の変化も後押しし、職場や大勢で楽しむ飲み会は減ってアルコール離れの傾向。日本酒を飲んでみたくても自宅用に四合瓶は大きいし、大人数で飲みに行くのは躊躇する、かといって知らない店にはひとりで行きにくい…。興味はあっても、現在はなかなか日本酒を手に取りにくい環境にあるかもしれません。
そんな今こそ!一見とっつきにくいと思われてしまう日本酒を「初心者でも楽しめる・女性ひとりでも入れる・お店の人と気さくに話せて学びもある」そんなお店でひっそりと楽しんでみてほしいと考えます。
このコンセプトをもとに、日本酒テイスター・髙橋亜理香が普段から実際にひとりで訪れるおすすめ日本酒専門店たちをご紹介。どの店もひとりで居心地よく、日本酒や料理に対しワクワクが目覚める名店です。
第1弾は、東京都世田谷区・京王線明大前駅にある日本酒専門店「佳酒旬肴 のすけ」です。
明大前という学生街で、あえて日本酒専門店を営む「のすけ」の魅力を探ってみました。
明大前から日本酒の秘密基地へ
明大前駅から徒歩5分弱。路地に面した階段でビルの地下に降りていくとその奥に、樽と杉玉。秘密基地のようにお店が現れます。「あれ?入りにくそう?」と思うかもしれませんが、大丈夫。遠慮なく乗り込んでください!
店内に入ると、オーナーの鈴木脩之介さんが集めた全国の酒蔵の前掛けや酒瓶、ラベルが所狭しと並ぶのが壮観です。内装はシックな和風居酒屋のイメージ。テーブル席とともに、カウンター席も4席あり、カウンターの目の前がオープンスタイルの厨房なので、ひとりで来てもスタッフと近い距離で会話ができます。
「大人が飲める」学生街の店に
2017年3月オープンの「のすけ」がこの立地を選んだ理由は、オーナーの鈴木さんの生まれ育った地元だったことに加え、日本酒好きに「聖地」と呼ばれる酒屋「小山商店」からのアクセスがよくお酒の仕入れに最適という点だったそうです。
また学生街として有名な明大前。
「この町って当然学生向けの店が多い分、却って大人があぶれてしまうんですよね。そういった人たちをターゲットにしたいなと思って」
若者の多い町で生活する大人を受け容れる場所を作りたかった、という鈴木さん。
「自分が学生の頃といったら、日本酒っていわゆる居酒屋の『お酒』か、当時流行の淡麗辛口な高級酒が主だったんですが、大人になって飲食の仕事を通して『日本酒ってものすごい種類と幅の広さがある』ということを知って感動して。それを自分と同じ大人に知ってほしいと思いました。『日本って実はすごい酒があるんだぜ!』と」
圧巻の日本酒ラインナップを目で見て選ぶ
さて、まず「のすけ」の驚くべき点は日本酒の数。保冷庫は150本保存できるスペースがあり、コロナ以降在庫の調整はあるものの、この日は100種以上のラインナップがありました。お客さんが実際に保冷庫を見ながら、今どんなお酒があるのかを確認することができるので、日本酒に詳しいお客さんが飲みたいものを探すことができるのはもちろん、日本酒初心者の方も視覚的にラベルを見ながら「ジャケ買い」感覚でインスピレーションを大切にできるのも大きな魅力。ショーケースからケーキを選ぶような気分が楽しめます。
イメージや印象も大切にしてもらうための工夫です。
一方メニュー表は「居酒屋の日本酒メニューは銘柄のみの記載でどんな味かわかりにくい」という短所を解決するため、できる限りの情報を記載して味の傾向がわかりやすいように配慮されています。
「せっかくお酒を飲んでもらうにあたり、最低限お酒に記載されている情報はお客さんにもわかるよう飲食店が提供したい。本当はできるならメニュー表には1種類のお酒につきA4で1ページ分くらい情報を綴りたい気持ちなんですけどね(笑)」と鈴木さん。
「とはいえ、情報過多では辟易するお客さんもいらっしゃるし、初心者の方だと逆に文字情報ではわかりにくかったりするので。そこがスタッフの出番。どんどんわからないことを質問してもらって、飲みたい味を教えてほしい。逆にお酒を飲んでくれたお客さんの感想が、我々スタッフの発見や勉強になったりもするんです」
鈴木さん曰く、お客さんと一緒に感想を出し合うことで、店も共に学んでいく日々だと言います。
「遠慮しないで、スタッフに絡んでほしいです。お客さんの話が聞きたいですし、こちらからもメニューに書ききれなかったお酒や蔵のサブストーリーを伝えることもできますよ」
さらに「のすけ」では、通常日本酒の最小サイズを半合(90㏄)で提供していますが、ひとりで訪れるお客さんにできるだけたくさんの種類を楽しんでもらうための気遣いもこっそりおこなっています。オーナーや店長に「ハーフで」とお願いすると、45㏄で提供が可能。
またその日の気分や、「いろいろ試したい」など希望を伝えると、お店のランダムチョイスでお酒が楽しめたりもしますので、この記事をご覧になった方はぜひお試しになってください。
自由な料理と自由なお酒で新しい発見を
「のすけ」のもうひとつの魅力が、店長の竹村さんとオーナー鈴木さんが中心となってつくる料理。シンプルな和食ベースに限らず、洋やエスニックなどの調味料を積極的に使用した創作系も豊富です。メニューによってはひとり用のハーフポーションにもできます。
料理については「〇〇料理専門店」という形態をとらないのが、あえてのこだわりだそう。
「日によって、『今日は死ぬほど揚げ物が食べたい』とか『今日は魚なんだよなあ』とかあるじゃないですか。その日に合わせた“自由”を楽しめる手伝いがしたいんです」
またその料理に対し、お酒のペアリングも基本的には「考えていない」という鈴木さん。
「ひと皿の料理の中にはメインの食材以外に、サブや付け合わせ、飾りの葉、ソースとさまざまなものがまとまっているじゃないですか。それに対し、ひとつのお酒だけで応戦するのは個人的には難しいと思っていて。使用しているそれぞれの素材にフォーカスしてお酒を選んでみたり、ひと皿を自由に試してみてほしいです。それで、『このお酒だとこうだった』という新しい発見、というかアハ体験みたいなものをお客さんと共有し合えたらと思っています」
ちなみに、この日わたしは「エビとカニのクリームコロッケ―カニミソのせ」と「ルッコラ・キンカン・温玉のマリネサラダ」をいただきましたが、ともするともったりしがちなクリームコロッケには、ほどよい酸と旨味を持つ「三井の寿バトナ―ジュ」がトマトソースとも繋がりを感じさせ、とても好相性。
またマリネサラダには、使用している素材それぞれの特徴を活かし、「手取川生原酒しぼりたて」と「みむろ杉無濾過生原酒おりがらみ」をチョイス。ハーブや青肉メロンのような透明感のある手取川は、金柑と一緒に含むとフレッシュな収れん感が現れ爽やかに、発泡感が強めでメロンソーダのようなみむろ杉は、全体のバランスを甘く柔らかく整えてくれました。
体験の「共有」で日本酒をお互いの学びに
「店も一緒に学んでいる」という点を強調する鈴木さん。ユーザーとお店が会話と体験を「共有」することで、一緒に楽しみ、発見することを大事にする「のすけ」は、改めて「お酒を飲む場」の大切さを教えてくれます。
どうせ飲むなら「自分だけの新しい何か」を得て帰りたい、ひとりでも安心して行ける場所を見つけたい。そんな人にぜひ訪れてほしいおすすめのお店です。
店舗情報
- 店舗名:佳酒旬肴 のすけ
- 住所:〒156-0043 東京都世田谷区松原2丁目28−20 一階西
- 電話番号:03-5300-3316
- 営業時間:17:00~23:00