「KURA MASTER 2023」スパークリング部門1位の秋田県・出羽鶴酒造 ― 受賞酒「明日へ」と日本のポスト・シャンパーニュ”AWA SAKE”
酒造・メーカー紹介
去る6月5日、フランスを中心とする欧州のトップソムリエやプロフェッショナルが選ぶ日本酒のコンクール「KURA MASTER」2023年度各部門の審査員賞(部門1位)が発表されました。
日本の酒をフランス人が重視する食と飲み物の相性“マリアージュ”の感性から捉え、評価基準も現地のワインコンクールに準じている「KURA MASTER」
2017年に始まり、日本酒には純米酒部門・純米大吟醸酒部門・サケ スパークリング部門・クラシック酛(生酛系)部門・古酒部門の5部門を設置。2021年度からは本格焼酎・泡盛の部門も新設され、日本の「國酒」を海外に広めるためにも重要なコンクールのひとつです。
その「KURA MASTER」2023年度サケ スパークリング部門で、部門1位の審査員賞を受賞したのが、秋田県大仙市の出羽鶴酒造が造る「出羽鶴 純米吟醸 awa sake 明日へ」です。
国内でも、爽快感と飲みやすさで人気の高いスパークリング日本酒。多くの酒蔵やメーカーから発売されていますが、その頂点ともいえる位置に立った「出羽鶴 明日へ」
この「明日へ」は厳しい品質基準と審査をクリアし、認定を受けた「AWA SAKE」と呼ばれる特別なスパークリング日本酒です。
実はサケ スパークリング部門で出羽鶴とともに決勝まで残り1位を争った、福岡県八女市の喜多屋「喜多屋 スパークリングクリスタル」も「明日へ」と同様に「AWA SAKE」の認定を受けているお酒。
コンテンツ
「AWA SAKE」とは?そして、スパークリング日本酒のトップを獲った「出羽鶴 明日へ」とは?
今回は秋田県大仙市の出羽鶴酒造と、作業の一部がおこなわれる販売元の秋田清酒を訪問し、秋田清酒・取締役製造部長の佐渡高智さんと出羽鶴酒造・杜氏の佐々木亮博さんにお話をうかがいました。
日本のシャンパーニュを目指す「AWA SAKE」
スパークリング日本酒と呼ばれるものには
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の3種類があります。
どれもしゅわしゅわとした発泡感が味わえ、ビールやハイボールを好む層や日本酒初心者にも受け、乾杯酒としても喜ばれています。
そんな中で2016年に設立されたのが、一般社団法人「awa酒協会」です。
厳格な品質基準を設け、第三者機関による審査をクリアしたスパークリング日本酒を「AWA SAKE」と呼称し、シャンパーニュやスパークリングワインと比肩できるものにすべく、品質の向上や国内外への普及活動に努めています。
秋田清酒・製造部長の佐渡さんによると「AWA SAKE」の認定条件の大きな軸となるのが「瓶内二次発酵」と「デゴルジュマン」と呼ばれる澱引きの工程。実はこれはフランスのシャンパーニュと同じ製法です。
ですが、あくまで「日本酒(清酒)」であるため、米・米麹・水といった原料のみを使用。あえて謳われてはいませんが純米酒です。
また澱引きが必須のため液体は透明でなければならず、ガス圧などの数値も具体的な基準があります。
これらすべての条件を満たし、さらに各蔵の技術や個性を発揮させるのが「AWA SAKE」ブランドの価値だといいます。
2023年度の「KURA MASTER」サケ スパークリング部門でのプラチナ賞(上位7種)は、どれも「awa酒協会」会員の蔵のお酒であり、そのクオリティの高さがうかがえます。
「出羽鶴 明日へ」の製造工程
「AWA SAKE」に取り組む蔵は、通常の酒造りと同じ一次発酵はもちろん、二次発酵の工程でも独自性を出すことができます。スパークリングの肝となる炭酸ガスをつくり出す瓶内二次発酵で、それぞれの造りに違いが出るのです。
通常シャンパーニュは、一次発酵でできたお酒を瓶に入れ、そこに発酵を促すための酵母菌や糖分を添加することで二次発酵させます。
ただし、日本酒の場合ここでシャンパーニュのように酵母菌や糖分の添加はできません。「日本酒」を名乗るためには法律上許可されていない添加物だからです。
そのため、日本酒の場合この工程に別の方法が必要となるのですが、「出羽鶴 明日へ」を造る際はどのようにおこなっているのかをうかがいました。
「出羽鶴 明日へ」の二次発酵はこのように2種類のお酒のブレンドですが、この工程は蔵により差があるそうです。
例えば一次発酵の最中に醪を一旦分割しておいて、あとで両方を合わせるといったように、1種類のお酒をベースに二次発酵をおこなう蔵もあるとのこと。
出羽鶴も全く違うタイプのお酒を混ぜているわけではなく、どちらにも同じ「秋田酒こまち」を原料米として用い、精米歩合も揃えていると言います。それでもあえて別々のお酒を造るのには理由があるそう。
佐々木さん
1種類の酒で造る蔵は、造りの時期である冬の間に一気に1年分、醪のあるうちに仕込んでしまうのが通常ですが、弊社の場合ベースのお酒は先に造り、火入れまでおこなった状態で別途貯蔵しておきます。一度に造れるスペースの事情もあって。
その代わり、ある程度1年中定期的な供給ができるというメリットもありますね。
こうして1か月ほど二次発酵させたお酒は、瓶を倒立させた形で澱を瓶の口に集める「ルミュアージュ(澱下げ)」をおこないます。
その後、瓶の口に下がった澱部分を凍らせたうえで、抜栓して気圧で澱を抜く「デゴルジュマン(澱引き)」という作業をおこないます。
シャンパーニュの場合は、デゴルジュマンの際にリキュールを添加し甘味の調整をする「ドサージュ(補糖)」をおこなったりもしますが、日本酒の場合は法律上添加ができないので、ドサージュはありません。
デゴルジュマンが終わるとコルクで打栓し、火入れをおこない、完成となります。二次発酵後の工程は基本的にどの蔵でも同じですが、使用する設備等には差もあります。
このように「出羽鶴 明日へ」をはじめawa酒協会のお酒は、フランスの伝統的な製法に則った造りと情報交換などのお互いの研鑽で、高品質なスパークリング日本酒として飲み手の元へ届きます。
「出羽鶴 明日へ」はベースの酒造りでは杜氏の佐々木さんがメイン。その後、二次発酵やデゴルジュマンの段階では、製造部長の佐渡さんが大きく関わり、ふたりのタッグが「明日へ」を造り出しているのです。
「KURA MASTER」と国内コンクールの違い
さて、国内鑑評会等は、ある程度出品側も審査基準がわかっているものですが、海外コンクールである「KURA MASTER」の場合はどうなのでしょうか。
佐渡さん
細部の項目ひとつずつのディテールは把握できていませんが、ワインの評価基準のチェックシートを参考にしたスパークリングや清酒用評価シートがありますね。
佐々木さん
国内での清酒評価シートなら1枚分ぐらいで済むものが、あちらだと50倍ぐらいあるのでは?という感覚。とにかく項目が細かい!
佐渡さん
我々が日本酒を見る目で考えるのと、普段ワインやシャンパンを評価する海外の人が考えるのとでは、やっぱり基準が違います。
例えばあちらでは『酵母の香りがあるものはよい』と言うんですが、日本酒の場合それは『酵母臭』というネガティブな要素になる。一概に日本酒の評価に当てはめて考えられないのが、難しいところです。
何より大きいのが、日本酒は「減点法」が基本であることに対し、海外コンクールでは「加点法」になることだと言います。
テイスティングコメントも日本酒はネガティブ表現が多いのですが、海外はポジティブな表現を用います。これは、兼ねてから業界で言われていることであり、この点についての改革は、日本にも必要なのかもしれません。
では、評価の観点が違うことで、国内用・海外用などのように出品先を考えて酒造りに反映させる、ということはあるのでしょうか。
「それはないですね」と佐渡さんと佐々木さんは口を揃えます。
佐渡さん
まず、日本酒としてよい評価を得られるもの、もっと平たく言えば“うまいもの”であることが大事。どこに出してどんな評価をもらうかというのは、結果でしかないです。
でも幸いなことに『出羽鶴 明日へ』については、国内でも『SAKE COMPETITION』で2019年に賞をいただきましたし、こうして海外の『KURA MASTER』でも1位をいただけました。
国内外ともに一定の評価を得ることができたのかなと、嬉しく思っています。
目指すは総合1位「プレジデント賞」
実は「KURA MASTER」は来たる8月28日(月)に、パリの在フランス日本国大使公邸にて「プレジデント賞」と言われる、全部門総合の最高賞が発表されます。審査員賞の授賞式も兼ねているため、佐々木さんが代表で現地へ飛ぶとのこと。
審査員賞は実のところメディアへのリリースより前に部外秘で連絡が来たそうで、公式発表までの間は社長・佐渡さん・佐々木さん以外、社員も知らなかったと言います。しばらく黙っているのが辛くてうずうずしていたそう(笑)。
プレジデント賞に関しては現地でリアルタイムの発表なので、さぞかし緊張感のある瞬間になるのでは。
スパークリング日本酒として頂点に立った「出羽鶴 明日へ」が総合トップに立てるのかも楽しみです。
スパークリング日本酒の「極み」で乾杯を
そんな「出羽鶴 明日へ」は、秋田清酒公式サイトのオンラインショップでも購入が可能です。審査員賞を受賞したこともあり現在品薄状態ですが、ぜひ一度飲んでいただきたい逸品です。また、awa酒協会の各会員蔵のお酒も公式サイト等で販売されています。
繊細に上り立つ豊かな泡と、シャンパーニュやスパークリングワインとは違う米の旨味と甘味は、乾杯酒としての極み。
きらきらと輝くグラスを片手に「明日へ」のプレジデント賞獲得と「AWA SAKE」の今後の世界的地位確立に期待を寄せたいと思います。
佐渡さん
各社いろいろと造り方があるのですが、弊社の場合はあらかじめベースになるお酒を造っておきます。そしてさらに改めて、二次発酵させるための酵母獲得用のお酒を別途仕込みます。
それを通常の製造工程どおり上槽し、いわゆるにごり酒をベースの酒に混ぜ込むという方法をとっています。この方法なら、あくまで出来上がったお酒とお酒をブレンドさせるアッサンブラージュのようなものなので、法律上の要件から外れません。