毎年毎日変わる環境の中、熟練の杜氏と蔵人達が「技」を変え、変らぬ「目指す旨さ」を造る。-茨城県 磯蔵酒造-
酒造・メーカー紹介
磯蔵酒造について
磯蔵酒造はどんな酒蔵?
「磯蔵酒造」は、茨城県央笠間市は稲田姫(スサノオノミコトの奥さん)に縁あることで、古くから稲作が盛んな「稲田」地区にあります。
江戸末期、長年稲作を生業としていた磯良右衛門が、地元の花崗岩から滲み出た天然水「石透水」に着目、酒造りを開始しました。
明治元年、磯良右衛門は酒蔵業を独立し「磯酒造店」を創業、敷地には米蔵や酒蔵があったことから屋号「磯蔵(いそくら)」と呼ばれました。
酒蔵のある稲田地区が古くは「稲の郷(里)」と呼ばれたことから名づけられた「稲里(いなさと)」が代表銘柄です。
地元の「天然水」、地元で育てた「酒米」、地元の「酵母」など、顔の見える関係で育まれた原料のみを使用して酒を造ります。
南部当時の元で修行を積んだ茨城杜氏と地元蔵人たちが、新米を使った寒仕込みによる伝統手造りで酒を醸します。
日本酒は米を醸す醸造酒なので、米の味と香りのする(ライスィ)な日本酒らしい日本酒を造ります。
2022年、生産量は約500石(90,000リットル=一升瓶で5万本)、現在、そのほとんどが県内、酒蔵近隣で消費されています。
毎年約15種類を醸造、甘口か?辛口か?にはこだわらず「Don’t think. Feel!」で飲み手の味覚を尊重、また「食事に合わせる」をテーマに品温の上げ下げにより更なる食事との相性をよくすることを推奨します。
「稲里(いなさと)」は地元が醸す、地元が呑める酒
まずは「稲作」ありき…
「磯蔵酒造」のある笠間市「稲田」地区には神様「須佐之男命(スサノオノミコト)」の奥さん「奇稲田姫(クシイナダヒメ)」を祀った稲田神社があり、姫が「稲田姫」と呼ばれる所以となった「好井」と言われる泉と3枚の「御神田」が、数々の民話と共に今も残されています。
そんな「稲の郷(里)」と呼ばれた「稲田」で、当蔵は代々米作りを生業としていました。
現在は13件の農家さん達と「本物の地酒(米)を育てる会」も結成、そして笠間の素晴らしい田園環境を守るための無農薬栽培も実施しております。
きっかけは「みかげ石」…
「石がいくらでもある」「石が幾らでも」「石が幾ら」「石幾」「磯」となったと伝えられる、日本で最も「磯」の姓が多い「稲田」は「みかげ石」と呼ばれる花崗岩の日本一産地です。
「みかげ石」は石灰分を多く含んでいる為、水の濾過作用があり、酒造りに不必要な鉄分等を取り除いてくれるので、みかげ石を浸透し湧き出る地下水は優れた日本酒の仕込水になります。
「磯蔵酒造」はこの水を「石透水(せきとうすい)」と命名し江戸末期より酒造りを開始、やがて明治元年には地元「稲の里」から「稲里(いなさと)」を酒名に酒造業を独立、敷地内数々の酒蔵、米蔵に因んで屋号「磯蔵」と呼ばれました。
造るのは地元「杜氏と蔵人」…
東北や北陸から酒造期のみ出稼ぎに出てくる「蔵人(酒蔵に寝泊まりして酒を造る職人)」で酒を造るのが当たり前だった時代、「磯蔵酒造」では平成5年より地元出身の若手「蔵人」の養成を開始、その後、南部杜氏のもとで15年修行を積んだ茨城出身の「杜氏」と茨城出身の「蔵人」達が「技と心」による伝統手造りにて、米の味と香りのする(ライスィ)日本酒らしい日本酒を造ります。
呑むなら「笠間焼」で…
笠間市は、みかげ石が風化することによりできる良質の「粘土」で焼かれた「笠間焼」と呼ばれる関東で最も古い焼き物の産地です(隣町の益子も笠間から派生)。
現在も近隣には300窯近い陶房があり、たくさんの呑んべえな(笑)作家さん達が、ぐい呑みをはじめ、さまざまな酒器も作陶、そして、たくさんの工芸ギャラリーもあり、お気に入りの一品を探す散策がとても楽しいですよ。
大事なのは「人」…
地元の水、米、酵母、杜氏、蔵人、酒販店、飲食店、酒器、呑んべえの皆さん…と、たくさん地域の人々に支えられできる当蔵の酒の、その80%は茨城県内、酒蔵から約50キロ圏内で消費していただけており、これは「地酒」として本当に理想的な事だと長年有り難く思っております。
その感謝の証として「農家さんから呑んべえの皆さんまで」縁あった2000人の皆様と「ちょっ蔵新酒を祝う会」と言う酒蔵での大宴会を、毎年4月末に開催します。
しかし、現在近隣は少子高齢化・過疎化が進み、酒の消費量は年々減りつつあります。
そこで近年は「そこに顔の見える人間関係が出来上がればそこは磯蔵酒造にとっての地元」と言う考え方で、新たな人々との繋がりを模索中、今日もまた、新しいかかわり合いが生まれることを楽しみにしています。
磯蔵酒造のこだわりは「目指す旨さ」のみ
毎年変る米の品質や毎日変わる気候等の環境の中、熟練の杜氏と蔵人達が、その都度「技」を変える事で、毎年変らぬ「目指す旨さ」を造る事を最も大事にしています。
希少で贅沢な素材、手間のかかる技法、純粋な思想、昔ながらの等々…何々にこだわって…近年、この「こだわり」は、日本酒ファンにロマンを与える要素として重宝されておりますが、それゆえ、本来「目指す味のために仕方なくできる」はずのこの「こだわり」が、酒のセールスポイントとして一人歩きし、モノ造りは「こだわりを売るためのこだわり造り」になってきているように感じます。
磯蔵は肝に命じます。
重要なのは「こだわり」でなくましてや「素材、技法、思想、伝統」でもありません。
「磯蔵酒造」の「目指す旨さが造れたかどうか」が重要なのであり、そして何より呑んで「旨い酒」であるかどうかが、最も重要なのであると…。
文:日本酒鑑定士協会 瀧村健治
編集:LIQLOG