自社田から造る、旨味とふくらみ、味わい深く食事を引き立てる「個性豊かな酒」-福井県 美川酒造場-
酒造・メーカー紹介
歴史・酒蔵と地域性
1887年(明治20年)創業、現在6代目蔵元「美川 欽哉」が代表として経営しています。今年で135年目を迎えます。
酒蔵の場所である福井市小稲津町は、福井市の南東部に位置した田園地帯で、東部に足羽川、北部に福井県立図書館、南部に北陸自動車道福井インターがあり、JR福井駅からも車で15分という、風光明媚でしかも交通機関も便利な所です。
創業前は、稲作農家の地主であったため、収穫されたお米と豊富な地下水を利用してお酒造りを始めたことが、今に受け継がれています。
今現在も、酒造業では全国的にも珍しい自社田があり、地元の契約農家様と計画を立てながら、酒米である山田錦や五百万石の品種を作付して、原料米全体の約30%を自社田で賄っており、将来は日本酒のテロワールを確立していきたいと考えています。
「舞美人」の酒質 濃醇・旨口・酸味の特徴
蔵付酵母を無添加で酒母造りに手掛けたのは、今から10年前ぐらいの頃からです。酒蔵特有の味わいを出したくて、山廃造りに興味を持ち出したのがこの時期です。
山廃造りのお酒は、独特なやわらかな酸味が有り、燗酒にすると凄くまろやかで美味しかったことに感銘を覚え、自分でも造ってみたいと思ったのがきっかけです。
初めの年は、基本に忠実に、暖気入れ作業を終えた後に、協会酵母を添加していました。味わいもまろやかで、少し酸味が多いかなと思いましたが、なかなかの出来だったと思います。
でも、蔵独自の味わいを出すには、何か自然的な力が必要と感じ、2年目からは酵母無添加の蔵付酵母で山廃純米を造り始めました。
この年から、異常なくらいの酸味が際立ち、こんな酸味の強いお酒を出してもいいものかと悩んだことを思い出します。
県の食品研究機関にも分析をお願いして調べて貰ったところ、乳酸系由来の蔵付酵母で腐造ではないとの事で安心はしましたが、商品としてお客様に飲んで頂けるかどうかが心配でした。
・・・がしかし、東京方面から、このお酒は凄く面白い、この酸っぱさは癖になる、肉料理に合うね、とか反響が瞬く間に広がっていき、1年も待たずに完売したことが、今を思うと驚きに感じています。
今現在は、すべてが天然の蔵付酵母で造られてはいません。酵母添加と蔵付酵母の割合は半々ぐらいです。
ちなみに、酵母添加の使用酵母は、協会7号、協会901号、協会10号、協会1401号などを主に使用し、泡有り酵母と泡無し酵母とを使い分けています。それから福井県の機関が開発した酵母を3種ほど使用しています。
豊かな酸味や旨味を出すための作業工程
豊かな酸味や旨味を多く出すには、蔵付酵母の場合、酒母造りが最も重要な点だと考えています。
通常、基本的な山廃造りの酒母日数は、27日間~30日間ぐらいで、酵母添加の速醸酒母日数が平均14日間ですから、かなり長期間な作業工程を山廃造りの酒母に手がけています。
しかしながら、「舞美人」の山廃造りの酒母は、蔵付酵母の発酵力が弱いこともあって、暖気入れ回数も多く、枯らし期間も長くとり、酒母日数を平均で50日間~60日間ほどかけています。
もろみ日数が25日間~35日間ぐらいですから、酒母日数の方がはるかに上回っていることになります。
ただし、酒母日数が長ければ長いほど理想的な酒母が出来るとは言えません。酸味と旨味のバランスを取りながら酒母を仕上げていくことが、大切であると思います。
あとは、蔵付酵母を如何に力強い酒母に育て上げるかも重要なポイントです。あまり過保護な作業になりすぎず、ある程度は自力で発酵力を高めていくことも必要です。この点については、子育てとよく似ています。
熟成酒について
新酒を搾ってから、そのまま無濾過生原酒として出荷されるものと、搾った後、ある一定の期間タンク貯蔵で熟成してから出荷されるものと、搾った後、瓶詰して常温で蔵内熟成させるものと、冷蔵熟成させるものと、3年間以上タンク熟成させて古酒として貯蔵させるものと、大きく5パターンに分けています。
タンク貯蔵での熟成期間は、少なくとも半年間は熟成させてから出荷しています。古酒も低精米のものや旨味の強い純米酒などは、タンク貯蔵で熟成させ、香りに特徴が有るものや酸味が際立つ純米大吟醸酒などは、冷蔵瓶貯蔵にしています。
古酒に関しては、新酒の搾った段階で、今は味わいが固いけれど長期熟成させると面白くなると判断したしたものを長期貯蔵用として封印しています。
また、氷温の冷蔵庫で瓶貯蔵しているお酒は有りません。純米大吟醸は、2℃の冷蔵庫で、中汲みを一升瓶で、あらばしりを斗瓶囲いで貯蔵しています。
山廃純米sanQ・外伝の酸味について
山廃純米sanQに関してですが、酸度や酒度は毎年まちまちです。
今期は酸度が6.0でしたし、今期の造りで酸度が高く味わいに特徴がある山廃純米を「外伝」と名付けていますが、今期は酸度が5.8ありました。
毎年、蔵付酵母の山廃純米には、酸度や酒度の数値基準を設けていません。ただ、「舞美人」の酸味愛好者(笑)のお客様が、毎年レベルの高い酸度を求めてくるもので、私も蔵元杜氏として造りがいが有ります。
【◎豊かな酸味や旨味を出すための作業工程】でも述べましたように、酸度が高ければ良いというものではなく、酸味があって美味しいお酒であることが絶対だと思います。
酸度が高いお酒という話題性だけが先行するのではなく、お酒造りの過程や発酵の素晴らしい魅力を感じて頂けたら、造り手として最高に感じます。
ちなみに、sanQの名前の由来ですが、sanは酸味のsan、Qは、毎年酸度や味わいが違いますよ~的な感じのQuestionのQ、そして飲んで頂いたお客様への感謝の気持ちを込めてThank youの造語sanQ・・・という感じで名付けました。
速醸と生酛・山廃系の割合
酵母添加の速醸系と酵母無添加の生酛・山廃系の割合は、約50/50くらいです。3年ほど前から、すべてが純米酒のみの製造になっています。
私としては、醸造アルコール添加酒が嫌いな訳ではありませんが、当蔵では圧倒的に純米酒の需要が多いため、自然的にそうなりました。
蔵元が想う日本酒に対する理念
私の日本酒に対する理念として、酒蔵の特徴を最大限に活かしたお酒造り、日本酒は世界中で最も味わいの幅が豊かなお酒である、という想いがあります。
地域の自然に育まれた中に酒蔵は存在しているので、お米や水、四季折々の気候、そして酒蔵に住み付いている蔵付酵母。
その自然の財産を有難く活用させて頂き、地酒が生まれてくるのだと思います。
私も個性豊かなお酒が好きですし、酸味の効いた濃醇な日本酒なんて、いろいろな料理に合わせて飲みたくなるじゃないですか。個性的なお酒は、飲んでいても楽しいし、造っている過程もまた楽しいものです。
将来の目標
これからの未来に向けて取り組んでみたいことは、お酒造りの担い手の育成です。
後継者の育成とか、そんな難しいことではなく、酒造期間に一緒に働き、モノづくりの楽しさや面白さを若い人達に学んでもらいたいと思っています。
今現在、地元の大学の学生にアルバイトとして来てもらっています。何らかの形で日本酒造りに携わる事によって、将来絶対に役立つ日が来ると信じています。
それは、はっきりとは分かりませんが、日本酒が日本の文化そのものを物語っているからだと思います。
また、弊社では自社田を活用して、酒米の品種「山田錦」と「五百万石」を契約農家様と共に作っています。
まだ休耕田の小さい田んぼを1つだけ残してあり、その田んぼで一般のお客様と共に、無農薬栽培で酒米を作り、そのお米でお酒造りをしたいと思っています。
これから造ってみたいお酒は、いろいろ構想中ですが、輸出用に向けて斬新なデザインのラベルやボトルの開発、製品化をして、逆輸入されるまでの人気商品になれれば最高・・・という夢があります。
最後に第二の麹室を作る計画があります。建設予定の場所の蔵は、立派に完成しましたが、麹室に関しては構想中です。
将来的には、生酛・山廃造り用の麹室と、速醸用の麹室と2か所に使い分けて、酒造りを行って行きたいと考えています。
文:「舞美人」醸造元 美川酒造場 代表/蔵元杜氏 美川欽哉
協力:日本酒鑑定士協会 瀧村健治
編集:LIQLOG