「いい酒」の答えを求めて一途に挑み続ける、天下泰平を醸す清らかな酒。-静岡県 遠州山中酒造-
酒造・メーカー紹介
遠州山中酒造の歴史
遠州灘に程近い掛川市の横須賀地区。徳川家康が築いた横須賀城の城下町として城主20代・約300年続き、今なお古い商家や街並みが残る旧街道に「遠州山中酒造」の酒蔵が建つ。
その歴史を遡ると、近江商人であった山中家が文政年間に現・富士宮市で酒造業を始めたことに行き着く。富士周辺に四蔵構え、その後、水量豊富な良水を求めここ横須賀に一蔵構えた。
昭和初期、分家した現在の遠州山中酒造が独立、この横須賀の蔵で理想の酒造りに邁進することとなる。建物は安政七年のもの。江戸末期の柱や梁を残した木造蔵でありながら、三層の作業場を持つ。
一階には醸造タンクが並び、その周りに作業用の足場が中二階のように設置され、三階に相当する階には麹室、放冷場、酒母室など。酒造りの工程順に作業のしやすさを考慮した構造となっている。これほど天井の高い木造蔵は他には見られない。
酒母・蓋麹・全量手作業の切返・ふね搾りにより、手を抜かない昔ながらの酒造りにこだわる一方、貯蔵・瓶詰など品質管理にあたる部分を現在建設中。
天下一と誇りたい美しき水
酒の命とも言われる水。ここ遠州横須賀はまさに天下一と称したくなるほどの良水に恵まれている。源流は南アルプス赤石山系。地下に染み込んだ雨や雪解け水が、遠州灘の海岸線までの長い距離を200年かけて旅すると言われる。ゆっくりと磨かれたその伏流水を、遠州山中酒造では蔵内で地下120メートルから汲み上げる。
酒造りに適した超軟水という水質もさることながら、特筆すべきはその豊富な水量。毎分260リットルに及ぶ清らかな水が得られ、仕込み水としてはもちろんのこと、多量な水が必要な洗米にも使用される。
蔵内で水を汲み上げそのまま使うことができるメリットは大きい。運搬や保管による水質の劣化や水温の変化が避けられるからだ。水温がまちまちになると、洗米の際の水の吸い方にさえ影響を及ぼす。気温に関わらず一年中16℃に保たれた、豊富かつ清冽な地下水。葵天下の味と品質の源流がここにある。
量より質を求め続ける信念
「いい酒、未だ分からず」そう言って旨い酒造りを追求した先代の思いを継ぎながら、蔵元の山中久典は、自らが手間隙を惜しまない酒造りに取り組んでいる。
いたずらに効率化を追わない。時に採算性を顧みない。古いものでも良いものは使い続ける。そんな酒造りを支えるのは、ただいい酒を届けたいという頑固なまでの志があるから。
そして、そのこだわりは伝統の継承だけではない。例えば、純米大吟醸のブームに安易に乗ることなく、新たな味わいを追求すること。あるいは、洋食との新鮮なマリアージュを探求すること。
日本酒の可能性、未来を見つめながら、山中は今日も「いい酒」の答えを求めて一途に挑み続けている。
文:遠州山中酒造 株式会社
協力:日本酒鑑定士協会 瀧村健治
編集:LIQLOG