文字どおり「酒の母」!日本酒を造る土台となる「酒母」について
日本酒の知識
日本酒造りは「一麹、二酛、三造り(いちこうじ、にもと、さんつくり)」と言われ、これは日本酒を造る上で重要な工程を表した言葉となります。
- 麹をつくる(蒸し米に黄麹菌を振りかけ麹をつくる)
- 酒母をつくる(麹・蒸米・酵母を水に加える)
- 醪をつくる(酒母をベースに、再び麹・蒸米に水を加え発酵させる)
今回はこの②の工程についてご説明致します。
酒母造りとは?
「酒母(しゅぼ)」とは、文字どおり「酒の母」であり、日本酒を造る土台となる物です。その内容は、米麹と水に酵母、乳酸、蒸米を加え «2週間~1か月程度» で造られます。
酒母内ではアルコールを生成する酵母を大量に増やす目的があり、微生物や雑菌が入り込む事を防がなければなりません。
そこで、酵母は酸性に強く、一方微生物や雑菌は酸性に弱いという特徴を活かし、酒母を酸性に保つために乳酸菌が必要となります。この乳酸をどのように取り入れるかによって様々なタイプの酒母に分かれます。
- 速醸系酒母(速醸酛)
- 人工的に作られた乳酸(醸造用乳酸)を用いた酒母のことをいいます。乳酸を酒母に直接投入することで、酸性状態にし安全に酒母の育成することができます。
酒母造りの期間は «約2週間程度» で、その環境の最適温度は20度程度です。現在の日本酒造りのほとんどがこの速醸造系酒母で造られています。
速醸系酒母で造られた日本酒は、「淡麗」な傾向があります。
- 生酛系酒母
- 蔵内に生息している乳酸菌を取り込むことによって乳酸発酵させます。天然の乳酸菌のため、速醸酛に比べ手間と時間がかかります。
酒母造りの期間は «3週間~1ケ月程» で、その環境の最適温度は10度以下です。速醸酛を比べて環境温度が低いのは、酒母を低温で保つことによって雑菌が入りにくくするためです。生酛系酒母で造られた日本酒は、「濃厚な味わい」や「酸味のある味わい」のものが多い傾向にあります。
生酛系酒母「生酛」と「山廃酛」
生酛系酒母の中でも「山卸し」という作業を行うものを「生酛造り」といい、山卸しの作業を行わないものを「山廃造り」といいます。
では「山卸し」とはどのような作業かという酒母に投入された米や米麹をすり潰し、液体にして乳酸菌の繁殖を待ちます。この米や米麹をすり潰す工程のことを「山卸し」と呼びます。
菩提酛「水酛」
速醸酛や生酛造りとは製法が違います。この製法は室町時代に奈良県 菩提山正暦寺で編み出されたとされる伝統的な酒母造りです。菩提酛を一言で説明すると、「そやし水」と呼ばれる酸っぱい水を製造し、そのそやし水を使って酒母を育成する手法です。
ではどうやって「そやし水」を製造するかというと、炊いたお米と生のお米、それにお水をいれ、乳酸菌を添加します。温暖な環境に3日ほど置くとそやし水ができます。その後、米をそやし水から取り出し、蒸して再びそやし水に戻し、麹を加えます。«1~2週間»ほど経つと、菩提酛の完成です。
菩提酛酒母で造られた日本酒は、生酛系同様複雑で「濃厚な味わい」です。
酒母は日本酒造りで最も重要な工程の一つです。同じ蔵元でも酒母が違えば味わいも違います。まして、蔵元が違えば同じ酒母でも味わいも変わります。
速醸酛、生酛、山廃酛、菩提酛それぞれの個性がありますので、酒母の違いを味わってみてはいかがでしょうか。
文:日本酒鑑定士協会 瀧村健治
編集:LIQLOG