2023年 No1.の日本酒レアイベント!超人気4蔵元・仙禽×新政×七本鎗×日日の「トークバトル・2023」
イベントレポート
2024年も幕を明け、今年も全国で日本酒イベントがあることと思います。そんな中、昨年1年を通して最も希少性の高かったイベントはこちらかも?
日本酒やワイン、チーズなどの酒類と食の専門知識を科学的視点に基づいて学ぶことがコンセプトの専門校「インフィニット・酒スクール」。全国の蔵元や蔵人も通うことで定評あるこのスクールが昨夏、創業20周年記念として人気蔵元の集う「トークバトル・2023」を開催。2016年よりこのトークイベントを開催しています。
昨年は日本酒ファンが沸く超豪華4蔵元が集合。
◆仙禽:薄井一樹氏(株式会社せんきん・栃木県)
◆新政:佐藤祐輔氏(新政酒造・秋田県)
◆七本槍:冨田泰伸氏(冨田酒造・滋賀県)
◆日日:松本日出彦氏(日日醸造・京都府)※初登場
日本酒好き必聴の話題が語られ、トーク後には蔵元との交流会も。受講生やファン約200名が参加した昨年最強のレアイベントを、スクール4年生の筆者がまとめました。
コロナ禍を過ごして見えたもの
新型コロナの流行で、4年ぶりに復活したイベント。冒頭で、仙禽・薄井さんが「コロナ禍で日本酒業界も大きく変化した」と言及し、まずは4年間の各蔵の変化を語ります。
新政・佐藤さんは、コロナ以降4年間で木桶を増やし続け、最終的に全量木桶仕込みの酒造りになったのを新政酒造の一番の変化に挙げました。
またイベント当時、秋田県では記録的大雨の被害に見舞われ、新政に大きな被害はなかったものの、近くの「ゆきの美人」醸造元・秋田醸造が浸水によって麹室を全解体、張替えという事態に。新政とゆきの美人は歴史的にも古くから親交のある蔵同士。佐藤さんも「ゆきの美人」再始動に期待を寄せました。
七本槍・冨田さんはこの4年を「濃厚であっという間」と表現。常に2年ほど前倒しの計画で考えていた酒造りや米作りが先行き不透明な状況となり、米を調達している地元の契約農家とも連携がより密になりました。また出張の制限で蔵にいる割合が増え、酒を育む“地元”を見つめ直せる時間でした。
日日・松本さんは2020年12月に杜氏を務めた松本酒造を離れ、一際怒涛の変化を駆け抜けました。「尺が足りないし、飲みながら話したい」と会場を笑わせますが、我々の窺い知れない思いもあったはずです。
「“蔵元”ではなくなり、保障もなくゼロから日本酒に向き合うことになって、暫し全国の蔵で武者修行をさせていただきました。そのおかげで2022年より自分の場所で始動でき、今この席にいられます」
拠点を持たない武者修行は松本さんに多大な影響を与えました。「各蔵全然違ったけど、そこにはそこの土地とか水とか、理由があってそうしている機能美がある。必然的で合理的な美しさと、リアルな感触が学べました」
そして仙禽・薄井さんは、新政同様木桶を増やしたことや、果実酒で単発酵に挑戦できたのが大きな変化だったそう。またこの日の4蔵をはじめ蔵元同士で常に情報や意見の交換をし、日本酒の未来を考え不安と向き合いました。
「傍目に『気持ち悪い』くらい一緒にいる時間が長くて(笑)。でもその4年が自分の蔵元人生の宝になった気がします」
未曾有の危機を未来へ繋げる「J.S.P」
そんな蔵元の繋がりを形にしたのが、2020年発足の一般社団法人「J.S.P(ジャパン・サケ・ショウチュウ・プラットフォーム)」です。コロナという未曽有の危機下に、オンラインで蔵元同士の相互扶助や、消費者への情報公開による國酒の購買促進を目指し、佐藤さんが代表理事、薄井さんが監事を務め、冨田さん・松本さんも加盟しています。
蔵元は多角的視野が必要ですが、酒造りや経営、と得手不得手はそれぞれ。J.S.Pでは異業種の専門家を招いた勉強会や互いの協力で苦手を補い「メンバー同士の関係性が大きな力になる」と薄井さん。
また「エンドユーザーへの伝え方」も見直し、変わりゆく世の中で、蔵のストーリーやプロダクトといった“財産”を、時代に即したツールやコンテンツでより明確に、面白く伝えたいそう。個々の蔵の取り組みとともに、連携を生かした団体としての挑戦も楽しみです。
生酛造りへの思い、それぞれ
イベントのトークテーマは「生酛造り」でした。
自然の微生物を活かした昔ながらの生酛造りを4蔵の中でもいち早く取り入れた薄井さんは、当初「伝統の製法を現代にアップデートする」という気持ちでしたが、今は思いが変化し「技術のひとつとして先に遺すのが大切なのでは」と考えています。
松本さんも「日日」に全量生酛造りを選択。松本酒造時代は、既に出来上がった型を崩せずに終わりましたが、再出発を機に「今やらないと一生やらないだろう」と決意しました。
価格では通常の速醸酛とほぼ差がないのに対し、設計から人手まで手間が段違いでリスクもある生酛造り。昨年のIWCで、木桶仕込みの生酛「木ノ環(きのわ)」が最高賞を受賞し「自分で育てるような個性あるものが好き」と語る冨田さんも、生酛造りは非常に難しく「クレイジー」と言います。
そんな壁に挑んだ松本さんは武者修行時代、特に「新政の体系的・現代的生酛造りを見て生酛へのイメージが沸いた」とし、佐藤さんを「中興の祖」と称します。
新政は2012年頃に山廃造りに変えた後、段階的に生酛造りへ移行した蔵。松本さんは新政の山廃造りを二度見たそうですが、その頃は「プロセスは理解できても自分の酒造りのビジョンは描けなかった」とのこと。その後新政は酛場(酒母室)を新たにし、微生物の繁殖の遷移に合わせ部屋を分けました。これを目にした松本さんは「ものすごく腑に落ち」、それが動力となって生酛造りへ踏み切りました。
そんな松本さんの初年度の酒を試飲し、ひとつとして失敗がないことに驚いたのが佐藤さん。全量生酛にすると聞いて当初周囲は心配していたそうですが、結果的に日日は松本さんのセンスあふれる酒となりました。
こうした真摯な酒造りの姿勢が、蔵のスタイルとして酒に宿り飲み手に届くことを蔵元たちは願っているとして、トークは締められました。
蔵元がぐっと身近な交流会
トーク後は蔵元とともに乾杯し、各蔵の酒と軽食を自由に堪能できる交流会に移行。乾杯には秋田県の重要無形文化財・ナマハゲが乱入し、なまはげ様の酒への造詣に一同驚き。
各蔵のブースでは実際に蔵元と話せるとあり、ファンたちで大盛況。
また目玉はインフィニット受講生VS蔵元チームが、アルコール度数、日本酒度、酵母などのスペックをブラインドで当てる「きき酒大会」
スクールではテイスティングを徹底的に訓練し、受講生はほぼプロ。蔵元も苦戦し、大混戦に一喜一憂する貴重な素の姿が見られるのもこのイベントの醍醐味でした。
蔵やお酒をもっと知ってみては
究極の希少イベント「トークバトル」でしたが、一スクールのためにこれほどの人気蔵元が集まるのは「インフィニット・酒スクール」が日本酒業界にとって信頼のおける学びの場所であるのも大きな理由です。
お酒は心で感じるのが最も大切ではありますが、興味を持ったことは「学びたい」と思うのもまた常。
蔵元たちが命がけで向き合う「酒」をもっと知りたくなったら、インフィニットの扉を叩いてみるのもいかがでしょう?