全国の日本酒を楽しみつくそう!日本最大=世界最大の日本酒イベント「日本酒フェア 2023」レポート
イベントレポート
街中のマスク姿も少しずつ減りつつある2023年。さまざまなイベントが本格復活・始動している中、去る6月16日(金)17日(土)に東京・池袋のサンシャインシティにて、日本酒造組合中央会による「日本酒フェア2023」が催されました。
「日本酒フェア」は、全国の酒造組合をはじめとした日本酒に関連する団体が一堂に会して、日本酒の試飲や販売をおこないます。
毎年、それぞれの土地や文化、特長などを活かしたテーマで出展し、その規模は日本最大のイベント。日本最大の日本酒イベント、ということは、ひいては世界最大の日本酒イベントということ。
2020年、2021年と新型コロナの影響でイベントは休止されていましたが、昨年2022年に東京国際フォーラムにて復活。今年2023年は、例年イベントが開催されていた池袋サンシャインシティでの再開催ということで、いよいよ本格的なアフターコロナのイベント開催です。
事前チケット制で、時間帯ごとに入場人数も決められているので、人であふれて試飲ができない…といったことがないのも魅力。
全国の日本酒を楽しみつくせるこのイベントを、筆者も2日間両日にわたり回ってきました!今回はそのレポートをお届けします。
2024年の予習としてもぜひお役立てください。
コンテンツ
鑑評会入賞酒をテイスティングできる「公開きき酒会」
まずは、「日本酒フェア」のメインイベントのひとつとなる「公開きき酒会」へ。こちらはサンシャインシティ文化会館の展示ホールBにておこなわれました。
酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が毎年共催している、吟醸酒の新酒を審査・鑑評するコンテスト「全国新酒鑑評会」に出品されたお酒の中で入賞したものが、こちらの「公開きき酒会」に出展され、イベント参加者はそれをひとつずつききくらべしていくことができます。
2023年の今回は、令和4酒造年度の鑑評会入賞酒が約400点勢ぞろい。各蔵の技術・英知・努力の結晶である鑑評会出品酒を、一度に試飲できる機会はそうそうないため、毎年多くの日本酒好きが集います。
さすがに会場に並ぶ400点すべてを試すのはなかなか難しいですが、お酒は各地域のブースに分かれているので、気になる地方のものから回っていくと効率的。
また地域ごとに並べられていることで、地域全体の傾向や特性の比較もできそうです。
メモをとりながら試飲していく姿も見られ、訪れた日本酒ファンは、華やかな吟醸酒のそれぞれが持つ微妙な違いの飲み比べを堪能していました。
全国各地の個性が見える「全国日本酒フェア」
さて、この一大イベントのメインディッシュともいえるのが「全国日本酒フェア」です。
同じくサンシャインシティ内のワールドインポートマートビルでおこなわれたこちらでは、都道府県の酒造組合や関連団体が、それぞれテーマを決めて出展し、訪れた日本酒ファンはブースごとに試飲や商品購入ができます。
お客さんの中には外国人の方もちらほら。日本酒へのアンテナ感度の高さもうかがえます。
蔵元と触れ合いながら、試飲を楽しめる
実に都道府県だけでも45団体が参加するこのイベント。お目当てのお酒がある方は、もちろんまずは目標に一直線かと思います。
ですが、数えきれないほどのお酒がラインナップされたまたとないチャンスに、可能な限りたくさんのお酒を味わえるのが理想という方は多いでしょう。かとって、お酒に無理は禁物。どれを飲めばいいのか悩んでしまう方もいたのではないかと思います。
このイベントは会場で多くの蔵元もブースに立っていて、直接話をすることもできる貴重な機会。何を飲むか途方に暮れてしまう方にぜひおすすめしたいのが、参加蔵元に声をかけて、その蔵のお酒を試飲させてもらう方法です。
蔵元にとって自分の蔵で造ったお酒を飲んでもらえ、知ってもらえるというのは、一番嬉しいこと。蔵やお酒にまつわるお話も、いろいろとうかがうことができると思います。
また、お酒についての感想を直に聞けるのも、蔵元には貴重なフィードバックの場です。
今年のフェアでお酒に迷ってしまった方、また来年会場へ行こうと考えている方は、ぜひ蔵元に「ご自身の蔵のお酒をお願いします」と話しかけてみてください。酒蔵との距離も近づくかもしれません。
地域の魅力や、取り組みはさまざま
「全国日本酒フェア」の会場は、大きく北海道から東海までの東日本側の地域と、近畿以西の西日本側の地域のブースでふたつの会場に分かれていました。
それぞれの地域、関連団体が出展テーマを掲げています。
参加した都道府県に地域の酒の魅力や、全体での取り組みなどのお話をうかがってみました。またこの日おこなっていた独自コンテンツなどもありましたので、その一部をご紹介します。
石川県「飲みまっし!金沢・加賀・能登の酒」
東日本側の入口を入ってすぐにあったのは、石川県のブース。
現在の石川県としての推しは、石川県オリジナルの酒米品種である「百万石乃白(ひゃくまんごくのしろ)」だそう。
「百万石乃白」は割れにくく高精白ができ、きれいな酒質に仕上がるとのことで、3年前から石川県のほとんどの蔵でこの酒米を使用してお酒を造っているそうです。
秋田県「米の秋田は酒のくに」
秋田県のブースで目につくのが、なんとガチャ!自分の持ち物に目印として付けられる、プラスチックのマーカーピンが秋田のお酒のラベル柄になっています。
通りがかった日本酒ファンが皆「かわいい!」と立ち止まっていきます。そのうえ、両替をしてくださっているのが、なんと「まんさくの花」の日の丸醸造社長の佐藤公治さんという、夢のガチャ!
佐藤さんによると、このガチャも「秋田の新しい取り組みのひとつ」だと言います。ほかにも、酒瓶をミニチュアにしたキーチェーンを秋田の30蔵分リリースすることを考えているそう。
キーチェーンは以前秋田県の限定酒プロジェクト「純米秋田クラフトマンシップ」の際に購入特典のノベルティとして付属されていたのですが、それをリプロダクトして30蔵分欲しいね、ということになっているそうです。
秋田県は酒質としても非常に優秀で、開発にも積極的な技術先進県。そうであるからこそ「ちょっと違うことをやらないといけないよね」という話をしているという、佐藤さん。
秋田県には、全国的にも多くのマニアを抱える非常に有名な蔵が複数あります。その一方で、ガチャのラインナップを見ても、東京では知られていない蔵も多いのが現状。
そこで、さまざまな蔵を知り、目を向けてもらうための企画として、こういったグッズは有効な取り組みであることがわかります。
長野県「山が醸したNAGANOの酒」
長野県は非常に日本酒蔵が多い地域で、80を超える酒造場があります。長野県についてのお話を、全国的にも有名なブランド「真澄」の宮坂醸造の社長・宮坂直孝さんにうかがってみました。
また、長野県は「山の県」であることにフォーカスしたいそう。県全体が複数の盆地で形成されていて、その盆地ごとに酒についても地域の個性がはっきりとしているとのこと。
宮坂醸造 宮坂さん
多様性に富んでいるのが長野県。ひとくくりにはできない分、それぞれが持つ個性を押し出せればいいなと思っています。
茨城県「山海の美しい自然が育んだ個性豊かなお酒」
茨城県は、蔵それぞれの独自の味で成長してきた県だそうで、「茨城=これ」というのがなかなか難しい、とのことではありますが、酒造組合としては、県唯一のオリジナル酒造好適米である「ひたち錦」に力を入れていて、各蔵も積極的に使用しているそうです。
ひたち錦で造るお酒はさっぱりとした味わいになるとのことで、県発祥の小川酵母(きょうかい10号酵母)のような高い吟醸香を持つような酵母を使用したり、しっかりとした味わいを持つ酒質になるような造りでも、「後味が明るく、ボディを感じさせ過ぎないすっきりした甘味のお酒に仕上がります」と話すのは、史上最年少での清酒専門評価者資格を持ち「霧筑波」を醸す茨城県・浦里酒造店の浦里知可良さんでした。
栃木県「とちぎの日本酒に恋をした」
天鷹酒造 尾﨑さん
栃木県には一見わかりやすい特徴がないように感じますが、非常にお酒造りに適した水系があって水質がいいんです。
実は賞を獲っている蔵も多く、個性を出して造ったお酒も評価が高い。
若駒酒造 柏瀬さん
栃木県は北部に山が多く、南部は関東平野。高低差もあり、水の硬さひとつとっても超軟水から硬水まで幅広いです。
栃木県の蔵は技術が高いので、地域の特性に最も適した造り方で、それぞれの蔵が酒を造れるのが魅力です。
若手の尾﨑さんと、先輩にあたる柏瀬さん。おふたりの楽しそうな様子がとても印象的で、「旨い酒を飲ませてくれそう」な空気がとても心地よく感じられました。
奈良県「はじまりとこれからの酒 奈良酒」
正暦寺が「清酒発祥の地」として知られる奈良県。倉本酒造の倉本隆司さんにお話を伺いました。
倉本酒造 倉本さん
清酒発祥、として今こうして歴史を語れるのは、その当時の人たちが成し遂げ、遺してくれたものがあるからこそ。これから自分たちも何かをやっていかなければ、と思います。
『風の森』(油長酒造)などは代表格ですが、チャレンジングなことをして、奈良県として日本酒業界を盛り上げたいなと思います。
室町から今に遺ったものを『奈良がこうして始まった』と言えているように、何百年後の人たちが、今を語れるようになってほしいなという思いです。
日本酒の長い歴史が、わたしたちも知ることができない未来に繋がっていくという、とてもロマンのあるお話でした。
岡山県「雄町発祥の地岡山」
雄町は非常に人気の高い酒米ですが、利守酒造・利守弘充さんによると「雄町スト」と言われながらも「雄町=岡山」というイメージが定着していない、と感じるそうで、最古の酒米である雄町が岡山県の発祥であることを「もっとみなさんに知ってもらい認知してもらいたい」とのことでした。
ブースには実際の雄町の稲もあったり、雄町サミットの告知などもされていました。
佐賀県「シン・サガサケマン」
「東鶴」を醸す、東鶴酒造の野中保斉さんによると
東鶴酒造 野中さん
佐賀県は米どころで、原料米も自県で調達できる地域。何よりも柔らかくて優しいお酒が多いのが特徴です。九州ではあるけれど、日本酒蔵がとても多い。最近は「光栄菊」なども筆頭です。
若手への世代交代もだんだん進んできていて、どの蔵も積極的にがんばっているのがいいところ。
並ぶお酒のラインナップを見ても、東京でも名前を聞く機会の多い銘柄が多く、勢いのよさがわかります。
大分県「CAMPAI CLUB」
大分は、個々の蔵の味が、まったく似ていないのが逆に魅力かもしれないとのこと。賞を獲れるような大吟醸にも特にこだわりはなく、受賞するしない、なども基本は度外視だそうです。
特産である魚や、甘めの調味料など、地のものと自然に合うようになっているのも特徴だそうで、極端なことを言うと、旅行で大分を訪れた際に「おいしかったから」とお酒を買って東京へ帰ったら、東京で飲んでみると「あれ?」といった感想になることもあるらしく「ぜひ、料理、お酒と大分のもので揃えて味わってみてほしい」とのことでした。
「花笑み」の大地酒造・大野仁士さんは
大地酒造 大野さん
今は麦焼酎で有名な県ですが、もともとは日本酒で栄えていた県でもあるので、ぜひ日本酒のイメージを高めるのにがんばっていきたいです。
と、ひとことくださいました。
関連団体のブースでも多くの学びが
都道府県だけでもものすごい数ですが、日本酒の関連団体のブースや、さまざまな日本酒についての知識を知ることのできるコーナーもありました。
熟成酒のコーナーは非常に外国人が多く、日本人以上に熟成の概念に注目が集まっていることがわかりました。
また、シャンパーニュと同じ製法で造られる「awa酒」のブースもあり、awa酒協会加盟の酒蔵のスパークリング日本酒が試飲でき、近年のスパークリング人気がうかがえます。
そのほかにも、愛媛県のブースは「愛媛さくらひめ酵母誕生!!!!」というテーマで、新開発の酵母にフォーカス。
東京農大花酵母研究会のブースや、酒類総合研究所の紹介コーナー、登録無形文化財「伝統的酒造り」の動画が見られるコーナーがあったりなど、試飲のみならず、五感でフルに学べるさまざまなコンテンツが充実していました。
また会期2日目はチケット制のセミナーもあり、専門家たちの話から学びを深められるテーマが多数ありました。
日本酒の未来を、飲み手も盛り上げよう
日本酒に関連するさまざまな団体が協力しあって、盛り上げられた一大イベント「日本酒フェア 2023」でしたが、イベントは飲み手があって成立するもの。
造り手はもちろん、お酒離れが進む中、飲み手がよい形で日本酒に関わり続けていくことが大切なのではないでしょうか。
今年のフェアに足を運んだ方や、これを読んでフェアに興味を持ってくださった方が、来年ぜひ造り手とともにフェアを盛り上げてくれたら、ひいては日々の生活に日本酒を楽しむこと・学ぶことを取り入れてくれたら、とてもうれしいことです。
宮坂醸造 宮坂さん
この80軒のひとつひとつの蔵のブランド力をとにかく上げていこう、ということと、長野県全体のブランド力を上げていくこと、というふたつの目標を中心にしています。
ブランド力を上げるためには当然、技術力を上げなければならないし、それから技術を商品に変えていく力や、情報発信力も必要だと思っています。今、技術的なことについても、マーケティング的なことについても、いろいろと勉強会などをおこなっています。
そういう流れからか、全体のモチベーションが高まってきているように感じますね。さまざまな品評会で受賞もできるようになってきています。