創業120周年を迎えた、岩手県 南部美人さん「美酒の魅力を探る」
酒造・メーカー紹介
まだ少し肌寒いくらいの岩手県二戸市。最近の日本酒の様々な賞を総なめにしている、「南部美人」さんにお邪魔してきました。
今年2022年でちょうど創業120周年を迎えられました。9月には盛岡で盛大な祝賀会が開かれ、国内はもちろん海外からもお客様が参加されたそうです。
いつもエネルギッシュで笑顔を絶やさない久慈浩介社長率いる南部美人の蔵人さんに会うのがとても楽しみでした。
本社蔵の他に市街地から山の方に入ったところに 馬仙峡蔵があるのですが、今回は本社蔵にお邪魔いたしました。
「南部美人」の由来
120年前の1902年はあの有名な「八甲田雪中行軍遭難事件」があった年。その頃からこの二戸で日本酒を醸してきました。
もともとは醤油醸造元でしたが、初代がその技術を生かし、日本酒造りを始めました。現在の二戸市堀野周辺より職人を雇用したこともあり、銘柄は「堀の友」だったそうです。
今の「南部美人」になったのは戦後、三代目の頃。淡麗できれいな酒の味を「美人」に例え、南部藩という地名と合わせて「南部美人」と名付けました。
この日は社長がご不在だったため、平野営業課長に蔵を案内していただきました。
南部美人といえば、最近の日本酒のコンペティションでは金賞などを総なめしている蔵元です。どんな秘密があるのだろうと興味津々です。
第一印象は「もう少し近代的な蔵かと思っていました…」(失礼)
いや、でもこの設備であの受賞歴は何か秘密があるに違いない!と先に進んでいきます。
岩手県の米を中心に酒を醸す
お米を蒸す釜場や蒸したお米を冷ます放冷機がある場所は清潔感があり、広い印象。
南部美人さんが使用するお米は、岩手県の酒造好適米「吟ぎんが」や「ぎんおとめ」が中心です。さらに、2012年からは、酒造好適米の王様、山田錦に負けない!優しく、やわらかなお酒を醸す、「結の香」の使用も始まりました。
「製麹」は人間と機械の共同作業
この時期にもかかわらず、麹室にも案内して頂きました。
約40度まで冷ました蒸米を麹室に引き込み、種麹を振り掛ける「種付け」という作業を行います。
種麹を振り掛けた後、約32度(大吟醸は約30度)になったら山のように盛り、布団をかけて寝かせます。子供を育てているようですね。そして夕方には、麹米を一度広げて切り返しという、麹米をもみほぐす作業をします。
そしてもう一度盛り、布団をかけて朝まで待ちます。ここまでは「床」の作業です。
そして棚の作業は2年間から「ハクヨー吟醸用製麹装置」も導入し、仲仕事、仕舞仕事はハクヨー君が頑張ってくれているそうです。
「手抜きのない技」で南部美人を生み出す
南部美人さんは「オール岩手」の地酒造りを目指しています。
米は「吟ぎんが」「ぎんおとめ」を、麹菌は岩手オリジナルNO36を使っています。そして酵母は華やかで繊細な味と香りを醸す「ジョバンニの調べ」を中心に使用しています。
トラディショナルな仕込室。タンクが整然と並んでいて、約30日をかけて低温でじっくりとお酒を育てていきます。
南部美人の味にふさわしい、手抜きの一切ない蔵人の匠の技がここに生きています。
搾りのタイミングが来ると、9割のお酒は「ヤブタ」と呼ばれる自動圧搾機により搾られます。出品酒などは袋搾りの手法がとられます。
秋と春の気温が高くなってきたこともあり、カビなどを防ぐために2012年にヤブタは冷蔵庫の中に入れられました。
さあ、ここから製品化するまでがダッシュです。
生酒から火入れ作業までのこだわり
生酒には「生老(ひね)香」というムレたような劣化集が発生する確率があり、一度発生してしまうとなかなか消すことができず、元には戻せません。
できる限りパーフェクトな状態でお客様の元へお酒を届けたい、という思いから一部商品を除き、生酒はあまり造られていないとのこと。
火入れは新しくできた馬仙峡蔵にある全自動のパストライザークーラーにより搾ってから一週間以内に瓶燗急冷火入れにてすべて行い、その後マイナス5度の冷蔵庫で貯蔵します。
火入れはこの瓶燗急冷の1回のみ。すべてのお酒が搾ってから10か月以内に流通されるフレッシュローテーションで販売されています。
「生酒」という原石を火入れという技術で磨き、ピカピカに光る「美人」にして出荷するのが南部美人さんの特徴でしょう。
搾ってから生酒で置いておく期間をどれだけ短くするか。劣化する前になるべく早く火入れをし、フレッシュさが保てる1回勝負の火入れを信念としています。
数々の受賞の秘密はここにあるのではないかと感じました。
南部美人に合うお料理は?
平野課長に「南部美人と合うおススメのお料理は何ですか?」と聞いてみました。「社長は魚貝類、刺身を推していますが、私は山菜や蕎麦、短角牛もおススメしたいです」とおっしゃっていました。
岩手の短角牛は赤身が多く、ヘルシーでアミノ酸も多く、日本酒に合うそうです。岩手県は菜彩鶏という鶏肉も有名。魚貝類と肉。どちらもマッチすると思います。
南部美人さんではお客様をお迎えするために新しい建屋も出来上がりました!
旅に出たらそこの土地のお料理とお酒を楽しみ「あぁ美味しい」と心から楽しんでみてはいかがでしょうか?
久慈社長、平野課長、大変お世話になりました。ありがとうございました。